君を想って海をゆく



とあるクライマックスで感動的な音楽が流れ、「その後」はBGMも無く淡々と話が進み、泣けてしまったところに、知らなかったタイトル(原題)がどーんと出る。作中印象的に使われてた言葉。涙が少し止まった。


フランス最北の港町カレー。17歳のクルド難民ビラル(フィラ・エヴェルディ)は、恋人が住むロンドンを目指しイラクから歩いてやってきた。密航に失敗した彼はドーバー海峡を泳いで渡ろうと決意、練習に向かったプールでコーチのシモン(ヴァンサン・ランドン)と知り合う。


仕事帰りにスーパーマーケットに寄るシモンを見掛け声をかける女性、会話から離婚調停中の妻と分かる。彼女は彼が「難民」に対し無関心なことを非難する。彼女を送って車のドアを閉める彼の手に、まだ指輪が光っている…
予告から想像してたのと違い、彼の側にもじゅうぶん重きが置かれた映画だった。ヴァンサン・ランドンのたたずまいによるところも大きい。今年日本で公開された「すべて彼女のために」(感想)もこれも、どちらもよかった。前者では自分が教員、後者では妻が教員の役(笑)彼女が携帯電話で話す後ろに、子どもの声が響いてるのがいい。二人の「ラブシーン」も、ああいうの、ありそうでいい。


シモンとビラルが海辺に車を停めて話をするシーンに、社会情勢がどうであれ、「誰か」を知ってしまったらもう後戻りできない、という感じがよく出ていた。
シモンが妻に向かって「彼は恋人のために海を渡るんだ、ぼくは目の前の君だって手放そうとしてるのに…」なんてロマンチックすぎるセリフだけど、実感として伝わってくる。


ビラルの恋人の一家は許可を得てイギリスへ渡った。恋人とその兄が、ビラルからの電話が父親にばれないようびくびくしている様子から、家長の権利が強いのが分かる。彼女の婚約を知らされたビラルも「父親の決定は絶対だ」。加えて一族で仕事を世話しあう描写に、そうした描写は珍しいものじゃないけど、「マイ・ビューティフル・ランドレット」を思い出した。少し前にフリアーズの「シェリ」観たからかな?


作中唯一ビラルの笑顔が見られるのが、久々の(もしかしたら「初めて」の)ベッドに友人と喜ぶシーン。人間ってそういうことが大事なんだと分かる。