フローズン・リバー


ニューヨーク州の最北部、カナダとの国境近く。白人女性レイ(メリッサ・レオ)は、ギャンブル好きの夫に新居の購入費用を持ち逃げされ困窮。ひょんなことから知り合ったモホーク族のライラと、移民を不法入国させる仕事に手を染めるようになる。



口にしたことはないけど、トレーラーハウスって結構憧れる。子どもの頃「窓ぎわのトットちゃん」で電車の学校を知ってからか、乗り物好きだからか、キャンピングカーと混同してるのか、映画で見る度に「泊まって」みたい…なんて思ってしまう。
でも、この映画の主人公が住むトレーラーハウスには憧れない。老朽化したそれは、彼女いわく「ブリキの家」。寒い夜にはドアの隙間を布でふさぎ、水が出なくなると、15歳の息子が「パパはこうしてた」とバーナーでもって管を暖める。冒頭、主人公が車を運ぶのにロープを使うのもそうだけど(うまくいかないけど)、色んな技術を要する生活というのがあるんだなあと思う。
主人公一家、そして彼等と似たような家族は、トレーラーハウスに住みながら、もっといいトレーラーハウスを切実に求めている。展示場の明かりは、零下の闇の中で輝いている。何たって新製品は「断熱材のおかげで水道管が凍らない」のだ。
しかし「ブリキの家」に住めるならまだましで、モホーク族のライラが一人寝起きしているのは、倉庫のような物体…いちおうトレーラーハウスらしい。


映画は凍りついた川や大地の様子に、「体感温度は零下○○度」というテレビやラジオの声をダメ押しに挟み込みながら、寒々と進行する。
妙な方向に転がり出したレイの生活が、クリスマスイブの夜、さらに二転三転する。派手なサスペンスやアクションはなく、自然に感じられる展開が心地いい。なんて上手いストーリーだろうと思った。


密入国に絡む人間の他、レイの勤める1ドルショップ(BGMが哀しい)の店長、夫の通うビンゴ屋の店員、トレーラーハウスショップの店員、レンタル屋の店員、皆があの寒々した土地で働いて、生きている。最後に警察官が見せる温情が、わざとらしくない程度の救いになっていた。


ちなみに「ビンゴ屋」というと、カウリスマキ・ファンとしては「パラダイスの夕暮れ」でマッティがカティを連れて行くシーンを思い出しちゃうけど、アキの映画が現実を下敷きにしつつも「ファンタジー」なのに対し、この映画に出てくるビンゴ屋は(多分)そのまんまだ。


臨時収入のおかげでレンタルしたテレビを取り上げられずに済んだ彼女が息子に向ける顔の、なんと晴れ晴れしてることか。お金があるってことが、こんなにも人の心を満たす。
一方ライラが最後に見せる笑顔にも心動かされる。この先、彼等がどのようなカタチで暮らして行くのか分からないけど、ああいう流動的な「家族」っていいなあと思った。