街の上で


一人暮らしにしては冷蔵庫、でかくね?からの主人公・荒川青(若葉竜也)の「おれは別れないからな」。この映画で男の口から二度出るこの言葉は私にとって暴力に繋がり得るものなので、心が少し縮んでしまった。青の働く古着屋で女性が口にする「まだ好きなんだからね」からの「うまく行くといいね」が、恋愛の俗に言う無理筋を同様に表しているとしても、物語上の都合なわけだけども男女で随分違っているじゃないか。

紡がれるスケッチの全てが他人の(青いわくの)「センシティブ」な領域に踏み込むことで展開するのも異様に思われて、このことにも怖くなってしまった。この映画がその種類と面白さを描いているのは分かる。例えば警官のくだりは一方的な開陳が誰かの背中を後押しすることもあるという話だし、予告で見た青とイハの場面では、「センシティブ」な会話が作中最も円滑に(互いにしたいことをしているという意味で)繰り広げられる。会話の「センシティブ」さと同衾の可能性の相乗効果でスリルに満ちている。

青と雪(穂志もえか)の顛末だけ見ればロマコメの王道ながら、そうなんだよね、一緒にいると楽しいのと恋とは別だよね、でもいつも思うことなんだけど何故人は恋人と友達とを分けるのか、そういえば「愛は曖昧なものだけど、嫉妬とか、そういうのは『証』になる」と言ってたな、などと思いつつ見ていたのが、ラストシーンの二人の笑顔でどうでもいいかと良い意味で丸め込まれて楽しく劇場を後にした。

それにしても同じような人ばかり出てくるなと感じたのは、女性の年齢や容姿が(男性に比べて圧倒的に)ある範囲内に収まっているからだろう(いや、「主人公の男が女に囲まれる映画」だと分かっているけども)。あるいは「街の上」には男性より女性の方が少ないのかな、などと考えた。先月読んだ「女ふたり、暮らしています。」の序盤にジェントリフィケーションで街を離れざるを得なかったというくだりがあったものだから、白鳥座を訪れたあの店員さんとお客さんが共に暮らす未来をふと想像してしまった。