ヤング@ハート


アメリカ・マサチューセッツ州のコーラスグループ「ヤング@ハート」の平均年齢は80歳。レパートリーは指導者のボブが選ぶロックやR&Bの名曲の数々だ。映画は次の公演に向けてのリハーサルの様子と、メンバーの日常生活とを織り交ぜたドキュメンタリーになっている。



オープニングは93歳の花形スター、アイリーンがクラッシュの「Should I stay or should I go」を歌うどアップの映像。その後も知ってる曲が目白押しだ。
(エンドクレジットに使用曲としてゾンビーズの「She's not there」が出てたけど、どこに使われてたのかな?気付かなかった)
ボブは練習法について「歌詞から入るんだ、彼等は詞の意味から曲を自分のものにしていくからね」と言っているので、音だけでなく詞にも重きを置いて選曲しているんだろう。
練習初日に曲を聴かされたメンバーはぽかんとしているが(耳をふさぐ者も)、ステージではどれも素晴らしいものになっている。皆が自分の言葉として歌うことのできる曲を選ぶボブの慧眼、また当初は「騒音」程度にしか聴こえなかったであろう曲を受け入れて練習するメンバーと、指導を続けるボブとの間の信頼関係…あるいは双方の好奇心…に感動した。


彼等は歌もそれほど上手くないし、歌詞さえ忘れる時もある。でも、歌って、歌う人間のキャラクター、容姿含めて全てがその要素になるんだと当たり前のことを改めて思った。JBの曲の冒頭のシャウトなんて、爺さんじゃないと出来ないし(年の功って意味じゃなく・笑)
私はどんな歌手であれ、プロモより実際に歌っている映像のほうが好きだけど、作中に挿入される「ステイン・アライブ」のプロモなどは面白かった。映画「アクロス・ザ・ユニバース」で、同じようにボウリング場を舞台に「I've just seen a face」が流れる一幕を思い出した(笑)


指導者であるボブがグループを創ったのは、自身が20代の頃。現在50代の彼はTシャツを着た普通のおじさんだけど、どことなくカリスマ性がある。といっても押しつけがましいものではなく、自分より何十歳も年上のメンバーに対し、自信と忍耐を持ってごく自然に振る舞っており、見ていて気持ちがいい。
練習時は並べた椅子にメンバーが座り、ソロパートを持つ者が前に出て歌うという形を取っていたけど、椅子との間に必ず帯状のシートを敷いていたのが印象的だった。「ステージ」をより意識させるためだろうか?


同行者は「年を取るとその人のエッセンスが凝縮されてオモテに出てくるから、つまらない生き方ってできないなあ」と言っていた。自分はどういう老人になるんだろう?ともかく今以上に、話が飛ぶことにはなるだろう…
ちなみに観賞後のトイレでは、上品そうな奥様二人が「アメリカは公園も家も広くていいわね〜」「年を取ったら、ああいうところで暮らしたいわね〜」と話していた。公演当日、メンバーたちがブラウスにアイロンをかけたり靴を磨いたりする姿が印象的で、おばあちゃんになったら、ああいう家事を色々やれる程度の(でも掃除がめんどくさくない程度の)部屋に暮らせたらいいなあと思った。


インタビュアー(イギリスのテレビ局)の質問内容がストレートなことにも感心した。「癌が再発するのが心配?」「歌詞はもう間違えない?」など、日本ならあまり口にしないことをずけずけ聞くし、相手もはっきり答える。
体調の悪さなどをネタにした老人ジョークも面白い。ああいうの、日本でもあればいいのに。


ラストのコンサートシーンには子どもの姿も多く見られた。一番前の席に、おそらく父親に連れられてきたであろう女の子がおり、無表情で姿勢よく座っていた。つまらないのかな?と思ったけど、同行者と話していたら、彼もその子が気になったそうで、でも自分があのくらいの年だったころを思い出してごらん、その時は騒がなくても、心に残ったことってあるんじゃない?と言われた。そういうものかもしれない、確かに外からは分からないものだ。


ちなみにうちの父親も60を過ぎてからグリークラブに所属し、海外公演などに行っている。考えたことなかったけど、いつまでやるつもりなんだろう?この映画を勧めてみようかな、と思った。