巻く


コリアン・シネマ・ウィーク2023にて観賞、2021年クァク・ミンスン監督作品。

ドラマ『ムービング』であっと驚く役どころだったシム・ダルギ演じるジュリは大学を中退し25歳で無職、「私が保証金の3分の1は出した」部屋に一人、ゲームと出前三昧で暮らしている。彼女を見守るのはジョン・レノンと『時計じかけのオレンジ』。人間関係が皆無のところへ母親(チョン・ウンギョン)のキムパプ店を代わりに切り盛りという話が転がり込み、そこから常連客のイウォン(ウ・ヒョウォン)、近所のパン屋の店主達へと線が繋がっていく。

「主人公の親が粉食やキムパプの店を営んでいる」作品、特にドラマは多々あれど主人公自身が店に立つことはそうない。多くの場合あそこは「背景」である。なんてささやかな内容だろうと思いながら見ていたのが、そのささやかさに意味があるのだと、終盤母親が娘からもらった煙草に火を付ける場面でふと気づいた。あまり描かれないけれど確かにあるものだから。当初は又こんな無用な(もちろん、異性愛の)ロマンスを…と思ったジュリとイウォンのエピソードも、会うとなれば新しいブラウスに髪を編み込み、向こうは向こうで巻けない食べられないのにいそいそやって来て、山に登って大声を出してみるといったささやかさが愛しく感じられた。

上映前の挨拶映像で監督がコロナ禍の実情を撮ったと話していたけれど、開け放たれ外と繋がっているのに全くもって静かな店の様子は奇妙で心に残った。パン屋のお客が陽性で一時閉店などのエピソードよりも皆が「顎マスク」なのが私には大変リアルに感じられた。すぐに「ちゃんと」着用できるようああしているわけだけど、この…あの感覚は時間が経つと忘れられてしまうのではないだろうか。加えて「2020年」が舞台の本作で母親がズンバに夢中になっているのにはその頃に撮影されたドラマ『ヴィンチェンツォ』のキム・ヨジンを思い出した、ズンバが流行っていたんだなと(あのドラマを思い返すと、結局思い浮かぶのは彼女とチョン・ヨビンという二人の女性が対峙している場面なのだった)。