死を告げる女


テレビ局の会議において、その場でただ一人の女である局の看板アナウンサー、チョン・セラ(チョン・ウヒ)は「『アナウンサー顔負け』の容姿」と男達に賞賛される記者にケチをつけて蹴落とす。女の席はごく僅かで不安定だから、女同士がこうして傷つけ合うはめになる。そもそも女が品定めされることに慣れっこでないとやっていけない。彼女が嘔吐するのは冒頭から予想できる理由の他にも、生き抜くために自身を麻痺させているからだろう。

(以下少々「ネタバレ」しています)

『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(2022)の主人公ヨンウの母は仕事のために娘を「捨てた」(ちなみに韓国で堕胎罪が無効となったのは2021年)。韓国ドラマでそのような母親を見たのは初めてだったので、ここへ来てやっとそういうことが描かれるようになったのかと思ったものだ。しかし『あのこと』しかり『ウ・ヨンウ』や本作しかりキャリアを築く際に妊娠出産は害だという話ばかりで、勿論それゆえ女の席がないわけなので第一の問題だけど、単に産みたくない、産みたくなかったという女はまだ描かれない。それは「理由もないのに」と「受け入れられない」んだろう(それ以前にお話にならないのか)。

シャワーの後の湯気で曇った鏡、局のメイク室の汚れた鏡にセラの顔はよく見えないが、彼女が訪ねた部屋の鏡には自身が、チェ・イノ(シン・ハギュン)の後ろ姿がはっきりと映り、あそこに「真実」があると分かる。母親の正体も映画を見慣れていれば登場時に予想がつくだろう。胎児の心音で終わるラストシーンには、これは堕胎するか否かを選択できる新しい世代の話なのだと思うと同時に、あの会議室が変わっていないのに彼女だけが、うちらだけが進んでも馬鹿を見るんじゃないのかとも思う。

催眠療法を見せるためだろうけど、精神疾患を話の中心に据えるのは病気の人にもそうでない人にも誠実じゃないと思う。そのことにより精神科医であるチェ・イノが探偵役となるが、演じるシン・ハギュンは「地に足ついてない」感ゆえ男にも女にも寄らず役に合っている。「男」「女」というのは地に足をつけていることによるから(と考えると、「地に足ついてない」感を持てるのは男の特権であるとも言える)。人外のようでいて、案外当人も共に惑ってしまうというのが彼らしくその様子に魅せられた。