エッフェル塔 創造者の愛


史実の空白を自由に埋めるスタイルというので、同じロマン・デュリス主演の大好きだった『モリエール 恋こそ喜劇』みたいだなと見てみたんだけど、期待から外れていたのに加え、ラストには…ああいうことを考えたりしたりする男性は実際いるものだけど…吹き出してしまった。それに20年来の関係を持つ女性アドリエンヌを演じるのが(『セックス・エデュケーション』のメイヴ役の)20代のエマ・マッキーというのはいくら何でも若すぎて変だしこの時世に無神経だろう。

ギュスターヴ・エッフェル(デュリス)にとってアドリエンヌは燃え盛る火である。誕生日パーティでのちょっとした出来事を彼が謝ると「私の方こそ」と返すのに彼女がどんな女性かが表れている。それは終盤の馬車の中での「私の決断」まで繋がっており、オースティンの小説じゃないけれど、当時の女性が裁量を持てる少ない範囲の中で最大限の意思を発揮するさまが全編通じて描かれている。しかしそれは彼女が主人公の場合に活きるのであって、エッフェル塔創造の話の「裏」では物足りないどころか少々軽んじられている感もあった。

作中最も時間の古いギュスターヴの姿は、資本家が足場の材料をけちったために川に落ちた部下を命がけで助ける場面。労働者の命を第一としていることが伝わってくるが、そこのところを含め彼の仕事ぶりをもっと見たかった。本や映画から、少し前、あるいはうんと昔はそうだったのかと気付かされることは多いけれど、ギュスターヴのプレゼンで出る「塔のせいで観光客が離れることはないか」との意見やその後の模型を使ったデモンストレーションなど面白く、駆け足なのが残念だった。