笑いごと


フィンランド映画祭2021にて観賞、2020年制作・アンナ・ルオホネン脚本、レーッタ・アアルト監督。脚本家として行き詰った35歳のマリア(エレナ・レーヴェ)が市民大学スタンダップを学び初心者コメディアンのコンテストツアーで国内を巡る物語。脚本を手掛けたアンナ・ルオホネンのメッセージ映像によると、内容はフェミニスト・コメディ・アカデミーでの自身の経験に基づいているそう。ステージに権力が強くあることを学んだのだと。

冒頭マリアが客として出向くスタンダップショーは、最悪な時の寄席にも似ている。手垢のついた「嫁」ネタに男性客が沸き、女性が異なものとしていじられる。映画には数々の「場」が出てきて、その時の構成員によって受けるネタが変わる。ツアーの車内では、最も普通=「ヘテロの白人男性」であるトミ(ヨーナス・サールタモ)のジョークに誰も笑わなかったり、思いがけない話題でマリアが「一人」になったりする。

スタンダップと反対のことは、家でSNSに泣き顔マークをつけること」。この映画はスタンダップとは(立ち上がって!)世界にもの言うことだと言っている。「単身子なし女性」のマリア、ノンバイナリーのキラ、有色人種のカリが自身に基づいたネタ作りをするのに対し、何も主張する必要のないトミだけが実生活とネタを切り離している。同様の人々に受けるネタを繰り返し、女性蔑視も「ネタなんだから何が悪いのか」というわけである。

新人ツアーの話ゆえステージの場面ではほぼ胃が痛くなるような思いをさせられるわけだけど、中でも最後のあの、面白くないどころか胸糞悪いだけのバトルは、考える機会を持たなかったトミをマリアが自分と同じステージに引っ張りあげた…いや、「ネタ」という鎧を無理やり脱がせた瞬間なのである。男だって弱味をさらしていいじゃないか、自分を見つめていいじゃないかというのをあまりの荒療治で行ったとも言える。

マリアが繰り返す愚かな言動に、もし私ならもっと酷いことをしでかしているだろうなと思いながら見た。ときめく瞬間があっても、キスやセックスをしても、「恋」には至らない、そういうことを描いてくれているのが特によかった。