ルルドの泉で



時節柄「偶像崇拝をやめて神を信じよ!」との声が響く交差点を通り抜け、イメージフォーラムにて観賞。ラストシーンにおける、シルヴィー・テステューのアイシャドウをのせた瞼が心に残る。



「今年のベスト巡礼賞を贈呈します!」


オープニング、アヴェマリアの流れる空っぽの食堂に、クラシカルな格好の「看護婦」とワゴンに乗ったスープ、それから人々が入ってくる。車椅子の者に歩いてる者、若者に老人。一瞬タイトルを忘れ、彼らの「共通項」は何だろうと思った。マリア様のテーマカラーである空色の服を着たシルヴィーの姿はすぐ目に付いた。


舞台はルルドでの巡礼ツアー。そこは決して「信仰の現場」((c)ナンシー関)ではなく、様々な思惑と俗っぽい人間模様に彩られている。
率直に言って、私にとって本作の面白さの大部分は、知らない世界を垣間見る楽しさにあった。おみやげ屋に並ぶ大量のマリア像、「沐浴」の順を待つのに像と並んで一つずつずれながら座る様子。「奇跡」が起これば「医療局に行って判定してもらう」、でも「基準は厳しい」。参加者に「奇跡を受けるにはどうすればいいの?」と問われた神父は「まずは魂を清めるのです」と答える。
シルヴィー演じるクリスティーヌは、全身麻痺のため車椅子生活を送っている。ツアーの仲間はお喋りなおばさん二人組(うち一人の症状は「しつこい湿疹」)、毎年来ている熱心な母と少女、他大勢、加えて看護師に若いボランティアたち。クリスティの小説の一場面のようだと思った。だからというわけじゃないけど、映画全体に昔っぽい空気も感じた。


「なぜ他の誰かじゃなく私がこんな境遇なのか」「自分より重症の人に同情はしない」。そんなクリスティーヌがやってきた理由は「ほんとうは文化や芸術の旅が好きだけど、車椅子で参加できるツアーは他にないから」。
車椅子を押されたり食事を介助されたりする際、彼女の顔に例えば感謝や遠慮の気持ちは浮かばない。作中「まだ若い」「お嬢さん」といった言葉(字幕)が出てくるので、20代位の設定なんだろうか?実際はそれより上の年齢の、でも不思議と子どもっぽく見えるシルヴィーが演じるのが効いている。どこか彼女を覗き見するような、伺うようなカメラワークもいい。
シルヴィーの表情が素晴らしいラストシーンが良かったけど、印象的だったのは、一人で動けるようになったクリスティーヌが、テラスで大好きなクリームたっぷりのパフェ?を食べていると、店のスタッフが大勢やってきて彼女に向かって拍手する場面。不気味極まりない。


クリスティーヌ付きの看護ボランティアを演じているのが、「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」で殺し屋だったレア・セドゥ。机に肘付いてパンをもぐもぐやる姿、草の上に頬杖付いて寝転がる姿が最高に似合ってた。最後に流れる間抜けな歌声も効果的。やることなすこと雑で、ディナーの不味そうなデザート(緑色のジェロにクリームが乗ったやつ)にクリスティーヌが目を輝かせても「食べていいの?ホイップよ」と面倒そうに応じる。
そんな彼女が言うには「何か意義のあることをしたいの」。隙あらば男に声を掛け遊んでいても、それは全然両立するものだ。そこんとこがよかった。