テイク・ディス・ワルツ



今年の「ナレーションがむかつく予告編」ナンバーワンだったのが、その印象は消えた。終わってすぐ、もう一度観たくなった。



「相槌はタイミングが重要なのよ」


オープニング、熱に浮かされたような顔付きで黄昏の室内に佇む主人公マーゴ。ミシェル・ウィリアムズこそが世界一似合うデニムのミニに、それより少し長いエプロンを付けている。入ってきた「男」を認識するが、言葉は交わさない。この場面が終盤に繰り返されるという作りが面白い。
まずは冒頭、マーゴと青年ダグラスの飛行機やタクシーの中でのやりとりが絶妙。些細なこと、むかつくことを口にした後に笑い合う、笑えばすべてよしとでもいうような、ああいう瞬間って大好き。自分のことを受け止めてもらえるというマーゴの子どもっぽい跳躍は、ことごとく成功する。
この場面を始め、全編通じて「乗り物映画」でもあった。マーゴが「乗り換えのどっちつかずな感じが怖い」という、比喩でもあるし、実際彼女は飛行機(と車椅子)、モノレール、タクシー、リキシャ、バス、遊園地の乗り物なんかに乗る。ラストシーンは、乗るのが好きなんだからしょうがない、でも独りだって乗れるんだ、というふうに受け取った。


セス・ローゲン演じる夫のルーは、「普通」であって「完璧」ではない(「完璧」が在り得るかどうかはともかく)。その評価はマーゴにとっての彼との関係についてであって、「彼」自身についてではない。ただ彼女は満足しておらず、彼は彼女と別れようとは思っていない、それだけだ。
寂しいと言うと「犬でも飼おうか」「次は子ども?」「それはまだ、この話はよそう」など、自分を助けてくれないことに加えて夫婦間に「タブー」があるのも、彼女が満たされなく感じる原因の一つだろう。
この子どもの件など、例えば「ジュリー&ジュリア」のメリルとスタンリー・トゥッチ夫婦の間の事情をさらりと「伝える」術なんかに比べたら少々ごつごつした感じ、全体的につぎはぎっぽい印象を受けた。でも描くべきことは全部描いてる、その選択ぶり!は見事。あまりに「適切」なものだから、積み重ねられるごとに…終盤になるにつれ、どんどん映画にのめりこんでいく。


マーゴのうちでの様子には、自分みたいだなと思った(笑)夫の口をぷるぷるした後、どんなかな?と自分でもやってみるの、あるあるって感じ。ああいうのって愛情の発露というだけじゃない、相手との関係性によるし、自分のためでもある。楽しくしていたい。だから波風立たないだけの生活には耐えられないのだ。
ミシェルがおしっこする場面が何度か出てくるので、おしっこカジュアル推進派としては喜ばしい映画かなと思ったけど、迷惑掛けることになったり「倦怠」の記号?だったりするので、却ってダメか(笑)でもおしっこするの、普通じゃん!という意味ではやっぱりよかった。おしっこに限らず、裸やセックスも「普通」かつ楽しいものとして描かれてるのがいい。人生は少々辛くても、セックスは楽しい。


マーゴは相槌が上手く打てないが、打たなきゃならないとおかしなタイミングで打ってしまう。真面目で不器用なのだ。
期せずして夫の隣で初めて感じる他の「男」の体。遊園地で乗り物から降りる時、男は手も取ってくれない。まだセックスしてないから触れられないのか、何なのか。
部屋の中で流れる音楽は、外の人には聴こえない。でも口ずさむと、窓越しにそれが伝わって、やがてこちらに入ってくる。一番印象的だった場面。