殺人鬼から逃げる夜


手話話者が活躍する映画が増えている中、本作はいわば伝統的な、マイノリティがそこにつけこまれて狙われる作品。予告からは分からなかった要素やひねりが面白かった一方、男が女を襲って(男性も手に掛けていたようだけど)男が助けることになるという展開に、まじで迷惑すぎ!という感情が先立ってしまった。異なる言語が出てくる映画としては、冒頭の娘と母(チン・ギジュ、キル・ヘヨン)の丁寧な生活描写もよかったし、違う言葉を使う者は同じ場所に居てもレイヤーが違うというようなことをよく思うものだけど、特に自宅での場面などそれがよく表れており見がいがあった。

韓国映画・ドラマにままある(特に父親不在の家庭において)兄が家長として家族を管理している描写が冒頭に置かれており(多分にもれずそれを楽しげに描いており)少々うんざりしながら見始めたら…まあこれは外で殺人鬼が跋扈していることの前振りとして見ることもできるわけだけど…この映画が意識してそうしているわけではないと思うんだけど、これが終盤の、私としては超、超衝撃を受けた、「妹です」と言ったら他の男達が彼女をつかまえて(しかも軍人達が、軽々と担ぎ上げて!)渡してしまうという場面に繋がっているわけだ。近年一番の恐怖を覚えた。

舞台は再開発を控え住人が消えた暗い街(と思いきや、終盤意外な展開に)。凶器も中盤は韓国映画でお馴染みのアレ(パロディはそう映えず)。警察が間抜けで役立たずなのも韓国映画らしいけれども、それゆえ却って最後の発砲シーンは面白かった。変な言い方だけど抜け感があった。部外者(=警察)によるあの発砲で、殺人鬼と被害者によるある世界が幕を閉じたのだ。