刑事マルティン・ベック


トーキョーノーザンライツフェスティバルにて観賞。
とても面白かった、なんて生き生きした映画だろう!1976年のストックホルムがそこに在る。スクリーンで見ると、「捜査」が描かれる前半は室内の調度、「立てこもり」が描かれる後半は街の様子が面白い。エリクソンの両親がクリームや砂糖の準備をする手元のアップの異様なこと。「クライマックス」のヘリコプターの墜落は勿論、その後のカットでまさに「蜘蛛の子を散らす」ように引く群衆や、別のヘリコプターに吊るされた死体の見応えあること。道端に停まってる車の色とりどりなのも印象的。


刑事マルティン・べック [DVD]

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オープニング、真夜中を一人滑り出す「犯人」と、病室で一人横になる「被害者」。暗闇の中の目玉に始まる殺人は、マルティン・ベック(カルル・グスタフ・リンドステット/伊東四朗似)いわく「こんなに凄惨な事件は初めて」。どの刑事も同じようなことを言うが、同じ刑事でも「新人」は現場を見て吐き、看護師は注射を打ってもらい、被害者の妻は鎮痛剤を飲むよう勧められる。
中盤にマルティンにより記者達の前でその手口が仔細に語られ、後半にも血塗れの床を掃除する映像がなお挿入される。殺害の描写に割かれる時間はわずかでも、その残虐さが伝わってくる。


刑事の「コンビ」が二つ、まずマルティンと彼いわく「そんなに面白くもない男」のレン。作中初のいかにもやばいことが起こりそうな音楽の後、マルティンはサウナのマッサージとプールで「リフレッシュ」し、署で迎えたレンはそれを受けて顔を洗う。「帰って休んだ方がいいとは思うが」「そうだな」と互いの気持ちは一つで捜査に乗り出す、この場面がひそやかにかっこいい。
彼らに比べれば「若手」のコンビがルンとラーソン。ラブコメもかくやの「最悪の出会い」から、終盤には無言で意思の疎通をするまでになるのが楽しい。


以前ソフトで見たのに内容をほぼ忘れてたのが、冒頭マルティンと娘のやりとりの場面の「船」で記憶が蘇った。後の船越しのカットがいい。後半にはもう家族の描写は無いけれど、終盤マルティンが「はしご」を上る時、ふと妻と娘の顔が脳裏に浮かんだ。例え、夜中に呼び出されるから?寝室ではなくソファで一人寝ているといえども。
「若手」のルンの朝は、うんこを漏らした幼子のお尻を洗うことに始まる(1976年の作品だから、あの子が私と「同い年」というところか)。その後の妻とのベッドでの様子がいい。上に乗っかってほうっと一息、男の人ってああいうことをするものだ。



ユーロスペースの1階のカフェがノーザンライツ仕様になっていたので、映画を見た後にキャロットケーキと北欧コーヒーで休憩。どちらも美味しかった。
作中のマルティンは体のためか始めコーヒーを飲まないが、会議が長引きそうな時には指示して皆の分を用意させる…といっても勿論、自動販売機のもの。「犯人」が水筒で現場に持ち込むものの方が全然美味しそうだった。「署内の自販機のコーヒー」を再現?した不味いやつも飲んでみたいなと思った(笑)