アバ ザ・ムービー



トーキョーノーザンライツフェスティバル2018にて、今年はこれさえ見られればいいやと思っていたハルストレム監督の本作を観賞。 1977年、スウェーデン・オーストラリア合作。ABBAのステージも素晴らしいけれど、楽しいのは「主人公」とメンバーが「共演」する映像。「The Name Of The Game」に乗せて見る夢、「Eagle」で語られるエレベーターでのひととき。


オーストラリアのシドニーABBAになど興味の無いカントリー専門番組のDJアシュレイ(ロバート・ヒューズ)が、上司(あるいは「友」)から彼らの「人間性」=「何が怖いのか」=「誰も知らない姿」を捉えてくるよう命じられる。ボスが「worldwide!」と手を広げるや画面がワイドになる。以降、アシュレイが走り回るパートとABBAのツアーのパートが交互に描かれるが、面白いのは、結局作中ABBAの「誰も知らない姿」が一切映らないところ。映画はメンバーが曲作りをする「群島にある小屋」を見せるが決して立ち入らず、ただ「Thank You For The Music」と共にカメラが引いて終わる。ハルストレムの出世作のラストシーンが「海辺の家」であるのは面白い。


インタビューどころか記者証さえ無いためコンサート会場にも入れず「誰も知らない姿」に手の届かないアシュレイは、まずオーストラリアにおける「ABBA」を捉えていく。町に氾濫する数多の商品、店を駆けずり回って買った雑誌の記事、ファンの人々、ファンじゃない人々。好きな理由を問われた大人が「清潔感があってきちんとしている」ことを挙げる、すなわち当時の「他」と比べているのに対し、子どもは「とにかく曲を聴くと楽しい」というようなことを答えるのが面白い(「男の人がセクシー」「セクシーじゃない」と言い合う二人の女の子のやりとりは楽しい・笑)。同時に「皆、こんなにも同じものを見てるのに!」と思う。作中メンバーが唯一目にする自分達の記事は、彼らのことを「kinky」と書いている。


アシュレイは、すぐそこまで来ていながら、女二人が「金色の髪の少女」に扮した狂騒の「Get On The Carousel」「I'm a Marionette」を聴くことはない。遂に約束を取り付け入場できたメルボルンで、ABBAは「みんな座りっぱなしだから踊れる曲を」と「Dancing Queen」を演奏し始める。このステージは、おそらく会場の規模が違うから撮り方も違うということなんだろうけど、それまでとは明らかに映像が違って見え、「主人公」の手が届かんとしているこの時になってのスターでしかないそのきらめきに涙があふれてしまった。


冒頭「世界一のお尻と言われることについてどう思いますか」と問われたアグネタは「分かりません、自分じゃ見えないし」と答える。しばらく後、アシュレイがダフ屋に「50ドル?そんなに出せないよ」で場面変わっての「Money, Money, Money」で初めて彼女の後ろ姿が映ると、確かに見事な尻である。メンバーの顔のアップには、私はハルストレムって最も「ハンサム」な20世紀の映画監督の一人だと思うんだけど、国も世代も同じ彼もああいう感じだよなあと思った。