最近見たもの



▼胸騒ぎのシチリア


リメイク元の「太陽が知っている」('69)と輪郭は同じながら、随分とアップデートされていた(だからといってそう面白くは感じなかったけど)。クリスティが晩年に「終りなき夜に生れつく」を書いた理由がまた脳裏に浮かんだ、「事件」は物語の終盤に起こるものだと。それにしてもティルダ様演じるシンガーの曲、というか彼女が「ミュージシャンである」場面は全てださく感じたけど、あれが人気歌手とはこことは違う星の話だろうか。音楽繋がりで、見ながら「しあわせの法則」(Laurel Canyon)を思い出していた。話が似てるのと、「プールの場面で70年代の音楽(ということで!笑)が流れる」のが同じ(「Laurel Canyon」ではクリスチャン・ベールが水に入る瞬間に「Do It Again」が流れ始める)


同監督の「ミラノ、愛に生きる」('09)の時にティルダの裸を見て、年相応にふにゃっとしてると思ったものだけど、彼女の肉体の美しさは我々一般人とは「元」が違うという類のものであって、例えばワークアウトしてる「ふう」じゃない。本作でもそういう感じだった。ちなみに「ミラノ〜」と本作のティルダの下着はどちらも見もの。セレブは素朴で地味なものを付けるんだなと思わせられる。


この映画のダコタ・ジョンソンを「小悪魔」としているレビューを幾つか見掛けたけど、そもそも小悪魔なんていう言葉は嫌いだけど(「悪妻」「鬼嫁」等と同じく、あくまでも真には自分を脅かさない「悪」を楽しむという狡猾さを感じるから)、そうじゃないよ、全裸にならなきゃ男を呼び寄せられない(欲しいものを手に入れられない)んだから。他の三人がくつろぐために服を脱ぐのに対し、彼女だけ「裸」の意味が違うもの。


ガール・オン・ザ・トレイン


「アンブリン・パートナーズ」の第一号作品なんだそう。出てると知らなかったアリソン・ジャネイやらリサ・クドローまで見られて得した気分。 終盤エミリー・ブラントが「ある意味ではお前がやったようなものだ」と言われ(意味が分からないにも程がある)「You did!」と(遂に)叫ぶ場面があるけれど、そう、刑事であるアリソンの仕事は「誰がしたか」を突き止めることである。けれども作中の彼女の仕事ぶりは結構適当、というかパワーや「筋」が感じられずがっかりした。「女性映画」だと聞いていたけど、「女性映画」にしては全てが緩い。テーマのために物語が奉仕しなきゃならないってわけじゃないけど、どっちつかずな感じを受けてもどかしかった。


確かに映画として、列車をうまく使っている。エミリーが冒頭、窓の外に「かつての自分」や「理想の自分」を見るのはタイムトラベルかパラレルワールドへの旅といったところだが、それは車窓が見せる幻。終盤レベッカ・ファーガソンと対峙する彼女の背後を列車が走っていくのは、そこから一旦「降りた」ことを表しているようだ。それにしてもこの映画のエミリーは、「私と一緒に逃げて」やら「同じ物語によって永遠に結ばれている」やら、随分ロマンチックが過ぎると思う(笑)


これは、少なくともこの映画は、虐待についての物語である。「悪役」ではないルーク・エヴァンスの行為について、精神科医エドガー・ラミレスが「それは暴力です」と断言するのが印象的だったものだけど、この要素もまた、その虐待の被害者が死んでうやむやになってしまう。とはいえ、私はうんこのことが嫌いではないのでこういう言い方するのは少々気が引けるけど、クソが臭い匂いをまき散らかしたり病気の元になったりしているうちに、つまり自然に還っちゃう前に、じゃーと流されてよかった。「今」はもう、「天人唐草」の父親とか犬神佐兵衛みたいな奴を勝手に死なせちゃだめだよ(突然犬神家が出てくるのは、先日BSでそれ絡みの番組を見たから・笑)。夜、眠れるようになるために。


ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅


今から百年近く前のアメリカ、いや世界の話かと(「本当の、当時の」じゃ無いとしてもね)なぜか妙に感慨を覚えながら見ていたら、終盤不意に、ローリングが今こんな脚本を書く理由が分かったような気がした。作中のエズラ・ミラーみたいな人やコリン・ファレルみたいな人がいて、主人公のエディ・レッドメインのような旅人がいて。


映画の最後、お客に「どこから思い付くの?」と尋ねられたダン・フォグラーが「分からないけど沸いてくるんです」と答えていたけれど、中盤「トランクの中」で彼が「これは夢じゃない、自分じゃ思い付かない」と言っていることからしても、これって、私達が何かを思い付く時、それはもしかしたら魔法使いに消された記憶なのかもってことだよね。そう考えもできるのが面白いなと思った。


コリン・ファレルは、動く度に色男の水が滴ってるようだった。色男って容姿もだけど動きが美しいものだ。一番は冒頭、記録室のようなところにキャサリン・ウォーターストンを追って入ってくる時の歩き方。終盤の「さっきはすまなかった」には吹き出しちゃったけど、同居人と私以外誰も笑わなかったから目立ってしまった…