ローマに消えた男


(PCの調子が悪いので、スマホから覚書として残します)


面白かった!「古き良き映画」を思わせつつの「よく出来てる」具合は、今年なら「マイ・インターン」に匹敵するなと思いながら見てたんだけど、途中から、作り手の趣味こそ発揮されているも「理」で作り上げられたそちらには無い、そこはかとない恐ろしさをも感じてぞくっとした。


オープニング、書記長エンリコ(トニ・セルビッロ)の両側に付いた部下のうち、女の方のタトゥーと前ソールの厚い(ヒールがありつつがんがん歩ける)靴に目がいっていたら、この映画で重要な役割を果たすのは、「目がいかない」もう一人の男の方なのだった。エンリコの置き手紙をそうと明かさず胸にしまう姿、替玉の「御披露目」時に漏れる吐息、彼もエンリコも(心の内にはあんなにも「情熱」があるのに)言葉ではなく息づかい位でしか心を表に出せないでいる。


目当ての一つ、テデスキ様は登場シーンから素晴らしい。画面の奥から軽食の盆を持ってこちらにやってくる時のはかなさ、何かを少し恐れているような感じと、置いて部屋を出てくる時の安堵した、包容力のある表情、いずれにしても今回の彼女は「女」の役だ。夫との夜の営みの後に暗いキッチンで果物をかじる姿も素敵だけど、あんなにもすぐ離れて他のものを欲するだなんて、夫への気持ちを想像する。


本作では「映画」が重要な小道具だ(作中では「政治」と並列に扱われる)テデスキ演じるエンリコの元恋人はスプリクターにして映画監督の妻。撮影を見学に訪れたエンリコは倒れた小道具係の替わりに働き、現場で認められる。そもそも二人は「カンヌで知り合った」のであり、彼女の娘も映画が日常。エンリコと娘がドライブの後でポテトにワインを飲みながらの会話「最後に映画館に行ったのは三年前だ」「政治家って不健康な生活してるのね、私なんて週に四回は行くわ、先週見たのは…」と、名画座でしか見られない絶妙な四作をあげるのが可笑しい。


「久しぶりに演じたよ、若い頃はよくゲームをしたものだ」というセリフから、双子のエンリコとジョヴァンニは「演技」をしないと同じようには見えないことが分かる。この映画は「双子もの」のロマンとそこはかとない恐ろしさも備えている(加えて「精神病院もの」の有名作などの、病院の内と外、どちらが「正常」かという問いも思い出させる)エンリコが街で双子の姉妹を見かけるタイミング、その画が最高。終盤に明かされる愛のミステリーは、キスする時に目を開けている女とどうだか分からない女の謎を新たに呼ぶ。「ゲーム」に私たちをも引き入れるラストシーンも見事な幕切れだ。