ヴェルサイユの宮廷庭師



オープニングは共同脚本と監督も努めたアラン・リックマン演じるルイ14世の寝起きの顔。子らと妻に起こされた彼があの声で、庭に関する演説の練習…というより演説をやってみせてくれるのが、英語でいくけどごめんねと言っているように受け取れて、悪くない出だし(笑)話がこじんまりしているせいもあってか、イギリス映画を見ているようだった。
とある遠景、大きな木を運んでくる一団、そういうタイトルなのかと驚かされる「A Little Chaos」の文字、マティアス・スーナールツの瞳のどアップ。植えられる木を真下から捉えた画。全篇通じて、構図がなかなか楽しい。


ケイト・ウィンスレットによる庭師サビーヌ・ド・バラと、マティアス・スーナールツによる国王お抱えの庭園建築家ル・ノートルの組み合わせが案外いい。面接を終え、失意の内に帰宅したサビーヌが体を洗い爪の汚れを取っているところへル・ノートルが訪れる。彼女が着替えている間に彼は小さな「混沌」に灯りをともして回る。この、いわゆる上品なエロス。ふと、ケイトって「不意打ちに対応する女」だと思う。そういうイメージがある。あの顔で男を受け止める。
マティアスは全篇通じて目つきがよく、これまでになくセクシー。作中何度か描かれる、大勢が集まる場において、この人と私とは関係がある、と思うだけで失神寸前の快感が身を走りそうな色気がある(分かりづらいか・笑)


本作は邦題から連想するような「お仕事映画」ではなく、大映ドラマの「お仕事もの」なら近い。ドラマの柱はサビーヌの変化。人に馴染めなかった彼女が(単純な演出なんだけど、ルーヴルに到着して馬車を降りると「物凄く煩い」というのが面白い)仕事を通じ様々な機会を得、やがて「秘密の部屋」に招かれると、縁の無いと思っていたであろう女達にも自分に通じるところがあると知る、ああいうところがいい。
サビーヌが自己紹介として「お金のために働いている」、「海藻で育てた鴨」について「(他の餌を入手できなかったので)欠乏ゆえの成功」と本気で言うのが心に残った。対して着込んだ衣装のごとく自分のことを語らないル・ノートルが、彼女の問い掛けに対し一度だけ渇望を口に出すのが、これまたセクシーだった。