イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密



第二次世界大戦中にエニグマの解読に取り組んだイギリスの数学者アラン・チューリングの人生を、ベネディクト・カンバーバッチ主演で描く。


とても分かりやすく面白かった。緻密かつロマンチックな語り口で、するすると頭の中に入って来る。アラン自らが「イミテーション・ゲーム」の「対象」として語る内容という形式がいい。オープニングでは「決して遮るな、二度と繰り返さない/君に主導権は無い」などと居丈高とも取れる態度で語りに入る彼が、中盤に時間を遡り「語り始め」る時には泣き出しそうな顔をしている、あの表情にやられた。
しかし一番面白いのは、題材である「暗号」にアラン・チューリングのキャラクターを絡めているところ。端的に言えば、世の中の自分以外の人が「暗号」を使っているようにしか見えなくて、でも自分にはそれが出来なくて、生き辛くてしょうがない人の物語だった。


ジョーン(キーラ・ナイトレイ)が「男性が自分を好きになるよう仕向ける」のが(「表」に見えている)「暗号」で、アランにそのことについて問われた彼女の「男の中で働く女は嫌われたらおしまいだから」という答えがその暗号を解く「鍵」。実際、この場面以降のジョーンの(男性達に対する)行動は、この「鍵」で「解読」することが出来る(勿論「ある程度」は、ね)
「普通」の人々は「暗号」を使いこなしながらその存在に気付いていない、あるいは彼らにとって「暗号」などというものは存在しないが、ジョーンとアランにとってはそうではない。社会における「暗号」の存在に気付いている、あるいは「暗号」が在ると認識している事が二人の共通点だ。「そんな馬鹿げたこと」「でも私の親よ」の繰り返しで、その認識を共有していると分かる。しかしジョーンがそれを利用して何とか社会に溶け込んでいるのに対し、アランには出来ない。冒頭職場で「僕は方法を見つけて毎日暗号を解きまくるんだ」と笑顔で言うのが切ない。


「戦争の『裏側』にこんなことがあった」系の映画としては、「戦争」描写がかなり多い。疎開する子ども達が列車に乗り込む駅のホームに始まり、地下への避難やガスマスクを着ける少年少女といった市民の描写、Uボートが魚雷を発射したり航空機が焼夷弾を落としたりといった「死」に直結する場面までもが、時には実写映像も交えて示される。これらが不思議なほど煩くない。
「仲間」の協力により「クリストファー」のローラーが動き始めると、その回転運動は次の場面の戦車の車輪の運動に重なり、チームが努力している間にどんどん人が死んでいくことが表される。アランとジョーンがMI6のメンジズ(マーク・ストロング)に頼み事をしに出向いた際、店のガラス一枚隔てた外は傷ついた者達であふれている。この映画は「こうしたこと」を、はっきりと、特定の立場にある者の苦悩として描く。なんとなれば、作中最後の場面でジョーンはアランにあのセリフを言うのだし、映画は彼らのおかげで何万人もが救われたという内容の文章で終わるのだから。


ベネディクト・カンバーバッチの素晴らしいこと。全編、バッチさんだ〜と思いながらも「アラン・チューリング」として見ることが出来る。学生時代の彼を演じた子役の顔立ちがあまりに似ていないのには混乱したけど、後ろ姿を捉えるシーンでは、その首筋の伸び方がそっくりで目を奪われた。
マーク・ストロングが、登場時間は少ないながら強烈な印象を残すのにも驚かされた。彼演じるメンジズにとっては確かに戦争も「wonderful」かもしれないなどと思っていたら、終戦後もあっさり人生を楽しんでいるふう。これまで見たことのない類の髪型とスーツが恐ろしく似合い、今までのどのボンド役者よりも「ボンドらしい」感じまでした(というのも変だけど・笑/それにしても彼はなぜいつも同じスーツを着ているのか?実際の「彼」に基づいているのか、実際的なタイプということを表しているのか)