ザ・ゲスト



これは面白かった!一口噛み締めるごとに、生まれてから今日まで見てきた映画の全てがそこにあるのを感じた。加えて小気味よい更新もなされている。


(以下「ネタバレ」は無い…つもりだけど、見るつもりなら読まない方がいいかも)


オープニングはぼやけた一本道を一心不乱に走る足元、後姿、そしてあの字体のタイトル、後に撃たれるかぼちゃの案山子。
「バス停から走ってきたんです」「あんなに遠くから?」…車が無ければどこへも行けない田舎町のとある家に、一人の来訪者「デヴィッド」(ダン・スティーヴンス)がやってくる。ドアを開けるとこちらに振り返る。なぜ「振り返る」んだ?と思う。「眠らない」彼が夜中に目をらんらんとさせながら窓から外を見ているのも合わせて、謎は後に解ける。


どういう話だか知らず、始めは「一家にある男がやってきて特に子ども達に影響を与えるアメリカ映画」、例えば大好きなデヴィッド・スペードの「ディッキー・ロバーツ」などを思い出してたんだけど、どうもそんなふうじゃない、そういう要素もありながら、それだけじゃない。この複雑な(「難しい」のとは違う)内容がいい。サスペンスやホラーに加え、学園ものや西部劇などちょっとずつ色んな楽しさが味わえる。
父親は何かというと酒。当初拒んでいた来訪者をビール数本の後には受け入れる様子から、人の意思なんてそんなものかと思う(これは「伏線」とも受け取れる)。二男ルークは母親の前では暴力を受けた跡をパーカーのフードで隠していたのが、デヴィッドとバーに寄った帰りには血まみれのティッシュを鼻に詰めたままで帰宅する。後に「OK(字幕「よくやった」)」と言われた時に口の端を上げる表情の、デヴィッドと似ていること。


作中最初に描かれる「暴力」は、ルークが高校でアメフト部の男子生徒に振るわれるもの。ロッカーにぶつけられるという単純な見た目ながら、美しく迫力がある。暴力シーンはどれも分かりやすく、量も私の好み。加えて暴力を示していながら動きの無い、例えば「刺されて倒れた女」のポーズまで決まっており、ただそれが映ってるだけなのに見ていて気持ちがいい。
いわゆるジャンル映画にありがちな要素の見せ方もいい。例えばデヴィッドが腰掛けている向こうの廊下の端で夫婦が彼について言い争っている、「普通」なら同じ画面で見せたいからってそれはないだろうと白けてしまいそうなものだけど、なぜか全く思わない。戸外とはいえ窓のすぐ傍で電話を掛けるデヴィッドの話を耳にしたアナ(マイカ・モンロー)が彼を怪しみ色々調べるが他の家族は信じないという、「映画」で馴染みのじれったいアレも、見ていて苛々しない。「映画」ってそういうものだからと我慢していたことを我慢しなくてもいい、それが有難い。そういうセンスが全編を貫いている。


たまたまそうなった、とでもいうような要素が面白いというのもある。例えば「家」と「戦争」の繋がりの可視化。見渡す限り「何」も無い田舎町から、中東へ出征する。「家」と「戦争」は目に見えずとも繋がっている。そして冒頭デヴィッドが、戦闘機のプラモデルの並んだ長男ケイレブの部屋のベッドに腰を下ろす時、「家」と「戦争」はもう「目に見えて」分かちがたくなる。中盤、予想していなかった場に話が飛んではっとする感覚も、単なるケレンを超えてそれと重なる。
また、「かっこいい男」が誰に対しても性欲を持っていない(しかしオッケー!と言えばオッケーどころじゃなくなってくれる)のもいい。女にとって、かっこよくて欲望を持たない男って、最も気軽に「楽しむ」ことのできる存在だから。それゆえデヴィッドとアナが一緒の場面どれもが、見ていてとても気持ちいい。「性的じゃない」から楽しいのではなく、この気楽さが嬉しいのである。