イコライザー



主役のデンゼル・ワシントンが「元CIAのトップエージェントだが今はホームセンターで働いている」という点に惹かれて観賞。ホームセンター映画としては十分満足。


(以下「ネタバレ」あり)


オープニングはデンゼル演じる「ロバート」(「本を読んでいそうな名前」)の朝の一幕。プロダクションの映像が続いてるのかと思ってしまうほど端正な、「止まっている」感のある導入。止まっているのは眠れない彼の人生だろうか。
この映画、とにかく歩みがのろい。そんなに喋らなくてもいいのに、そんなに長く映さなくてもいいのにとばかり思う。特に「何」が描かれるわけでもないので時間の無駄だ。宣伝で強調されていた「『19秒で』仕事を終える」というのに相当する場面が全てつまらないのにもがっかりした。むしろ「その時」を省略した、ハンマーを売り場に返す場面や、大爆発をバックに悠然と歩く場面の方が面白い。デンゼルの動きがそう速くないのを逆手に取って、というか彼のキャラクターを活かして、スローモーションを多用してるのもよかった。今時あれで見栄えがする役者って限られてるもの。


何せ最近見たのが、ル・カレによる「現代」の諜報戦を原作とした「誰よりも狙われた男」に、「警察」と「マフィア」を粛清する特殊部隊を描いた「エリート・スクワッド」だから、元CIAエージェントが個人でロシアンマフィアの一味を根絶する、なんて筋書きが古臭く感じられても仕方ない(尤もこれはこれでそういう主張と見るべきか。「ホームセンター」がその思想の象徴)。マフィアのボスとの「俺を殺して何が手に入る?」「世界平和だ」なんて、PSHを思い出すと間抜けにも程があるやりとりもある。
諸々の「仕込み」はある。ロバートはテリー(クロエ・グレース・モレッツ)に対し、「老人と海」について「漁師は漁師、鮫は鮫」と語る(「クライング・ゲーム」でもお馴染みの「サソリとカエルの話」の変奏)。「ドン・キホーテ」を引きもする。これらは、長年の不眠が殺人によって解消する、すなわち彼の本性が殺し屋であるという描写、ラストで「透明人間」を傍らに「ヒーロー」への一歩を踏み出す描写に繋がる。


ホームセンターの同僚の太っちょ(なぜか見ながらずっと、人種も違うのにクリス・ファーレイを思い出していた)がロバートの援助で警備員の試験に合格し、程無く強盗が入る(彼はその場におらず関わらない)くだりは、ふと「落差」を感じて面白かった。彼しかり、ロバートの手助けは本人の「自立」が目標。クロエの場合もファンならがっかりする程の登場時間だけど、彼女は彼がヒーローとなる「契機」だから。橋の上を並んで歩く場面で「視覚的」にも表れている、二人の「距離感」が私には丁度よかった。
「女性の貧困と風俗」問題として、テリーは「娼婦」でなくなった後どうやって食べていくのか考えていたら、ロバートに「一万ドルと航空券」をもらった上に「定時の仕事が決まった」なんて言うので拍子抜けしてしまった(勿論それに越したことは無い)。そもそも二人の合言葉?は「なりたいものになれる」なのだ。この辺りも「映画性」により、平たくいえば、フィクションだからと納得するしかないんだけども。


上映時間の長さに比して職場の描写がちょこちょことしか無くじれていたところに(笑)クライマックス、舞台はとうとうホームセンターに。ボスの右腕テディ(マートン・ソーカス)らが閉店間際に押し入り、店員を人質にロバートを呼び出す。ロバートがドアをロックして全員を閉じ込めるあたりで腕捲り&座り直し、それからは期待通り。このくだりのケレンでもって、やはり前述の「古臭さ」が帳消しになった。
「一人殺せ」(でもってなかなか殺さない・笑)から、デンゼルが巨大な体躯で仰向けに寝転ぶ小休止までが楽しい。砂利に有刺鉄線、鎌!ネイルガン!そして電動ドリル…あまりに「そのまんま」だったので、ここで爆笑して周囲に迷惑を掛けてしまった。


ロバートがかつての上司(メリッサ・レオ)を訪ねる場面に、007シリーズ(どの作品だか失念)の、男女同衾のベッドサイドの電話が鳴ると女が取る、女の方がスパイだったというのが「意外」で「かっこいい」というセンスって、今でもあるのかもしれないと思った(彼女が自分でお茶を淹れて運んでくる場面がわざわざ使われてるんだから、ちょっとした意図はあるに違いない)。私がマッチョな目で見てるからこそだけど、ホモソーシャルな題材の時は、自分を守るためにわざと目を濁らせてるから…