観相師



何だか妙な体験をした、という感じ。「観相」についての映画のスタンスが伝わってこないまま、どんどん話が進んで行くから。もっとも、始めは掴みどころが無く、放り込まれてあちこち見て回ってるうちに燃えてくるも、結局「私達はみな波に乗ってるだけ」と悟る、この気持ちの変遷はまさに作中の「庶民の代表」、ソン・ガンホ演じる観相師のネギョンと同じなのかもしれない。


「妙」な感覚を受けたのは、物語に「観相」が絡められているから、というのも大きい。この映画は「史実」を元にしているのだから、登場人物のすることは概ね、モデルとなった人物がしたことである。とすると、作中の「観相」が「正しい」のならば、本作のキャストの顔は、歴史上の人物の顔に似ているのだろうか?エンドクレジットで「本人」との比較が欲しいくらいの問題だと思ったけど、せいぜい絵しか残っていない時代の話だから仕方ないか(笑)本国のポスターにはそれぞれの顔が載っているので、彼らの「顔」ありきな映画であることには違いない。
(この映画における)「観相」とは何なのか、という疑問については、終盤ネギョンがとある人物に「謀反に加わった者達の顔を記録しておけば後の役に立つ」と言われることからして、帰納的な学問なのだろうと思う。ラストシーンのネギョンはそれを否定する。「私は波ばかり見ていた、波は風で動くのに」。思えば冒頭、町に出たネギョンの息子ジニョン(イ・ジュンソク)が役人の暴挙を諌めようとした際に店の者から受ける懇願のセリフは印象的だった、人間は何かに乗らなければ生きていけないと示されていた。


名家の出だが今は貧乏暮らしのネギョンは、ある日訪ねて来た、芸妓館を営むヨノン(キム・ヘス)と従者から見料、というより「前金」を受け取り、義弟のペンホン(チョ・ジュンソク)と共に鶏を買って腹を満たす。都に出るもヨノンに騙され朝から晩まで客を取らされ、そこから抜け出すため高官のキム・ジョンソ(ペク・ユンシク)にすりより部下の悪事を次々と暴いて見せる。それを耳にした王の文宗(キム・テウ)に「自分の代にそんなに犯罪者を作られては困る」と引っ張られ「裏切り者を見抜く」よう依頼される。ネギョンの視界が次第に広がり、彼にとっての「顔相」の意味もどんどん変わっていくのが面白い。
ジニョンは、科挙の後の面接において「何を努力してきたか」と問われ「運命に抗うことです」と答える。この「運命」とは、父親ネギョンの「官吏になると災難に遭う」という見立てのこと。その後、ネギョンは彼を人目に着かない場所へ引っ張っていき「何のつもりだ」と耳を引っ張る。この時のガンホの姿には、単なる笑いどころじゃない、理不尽なエネルギーとでもいうようなものを感じて、心に残った。


首陽大君を演じるイ・ジョンジェが素晴らしい。「新しき世界」も面白かったけど、私がマフィアものをあまり得意じゃないからかもしれないけど、彼についてはこちらの演技の方がより見応えあるように感じた。チョ・ジュンソク相手のある場面など、物語を見ているつもりが、彼と私の一対一で騙されてしまった。
それから、本作には、権力争いを描く映画につきものの、権力者にはべらされてる、はべらざるを得ない女達の描写がなぜか殆ど無い(背景として「女」が使われている場面が殆ど無い)ので、そういうのにうんざりしている身としては見易くてよかった。