不思議の国の数学者


終盤マンションを後にするイ・ハクソン(チェ・ミンシク)の背中にジウ(キム・ドンフィ)が「証明するんだ、転校するな」と自らが彼に掛けられた言葉を投げることからも、この映画では脱北者と特例入学者(低所得家庭枠での入学者)とが重ねられていると分かる。夢を抱いてやって来たのに異物、腫物扱い、排除されようとしている「じゃま者」の二人。しかしボラム(チョ・ユンソ)の言う通り「なんでこっちが出て行かなきゃなんないの?」という話である。

ジウが「守った」クラスメイトは彼にお金を渡そうとする。読書室でキャリーが開いて荷物がなだれ落ちても周囲は無反応。ハクソンとジウが共に時間を過ごす場がかつて友情が育まれた「伝説の」科学館であるのは、今は学校に友情というものが存在し得ないことの表れだと言える。そこで生まれた友情が物語の終わりには、「座りなさい、見ています」に逆らって立ち上がるという、ささやかながら確実な影響を生徒達に与える。

予告編を見た際、学者だからといって教えるのが上手いだろうかと疑問を抱いたものだけど、これは自身が学んで知り得た美しさを伝えたいという心こそが教える行為には必要なのだという話でもあった。ハクソンがジウに最初に教えるのは問いには間違いがあり得るからその意味を考える、自分の出した答えが正しいか否かの証明も自分でするということ。それから出来なくても翌日また取り組む勇気。きちんとやれば先達として内容を確認し、過程を認めてくれる。

ハクソンの逆の存在が「問題に間違いはない、正解か否かは出題者が決める、逆らうと馬鹿を見る」と断言する数学教師にしてジウの担任のグノ(パク・ビョンウン)。ジウに問題の不備を指摘されての「次のテストで同じ問題を出すから(私の言った)この答えを書くんだ」には憤死しそうになった。尤もジウと決して目を合わさないところから彼もそれが間違いであると知っている…が体制に逆らえず流されていることが分かる。この映画はそれこそが南における現在の悪だと言っているんだろう。