おとなの恋には嘘がある



うまい!面白い!しかもいつ誰が見ても千円(とはいえ上映劇場は限られてるのかな?)。最高だった。
予告編に遭遇した際には、いいなあ男の人は、ガンドルフィーニみたいな体型の「仲間」の恋愛ものを楽しめて!と、そういう映画の方が多いということに対して反発も覚えたけど、見てる間は気にならなかった。男女逆のもあればいいなと思うけど。
「恋愛」は「人間関係」の一部でありながら、特殊性が高く、それゆえ色々な問題が発生する。そのことがポシティブに描かれている。選択性とは逆のことを表現しているので、印象や感想を一言でまとめるのには抵抗があるけど、あえて言うなら「誰にとっても完璧な人はいない」。宣伝の「誰もが誰かの元彼、元彼女」というような言葉、当たり前じゃんと思ってたけど、実際に見てみたら、確かにそのことに意味がある。


冒頭から面白いのが、主人公エヴァ(ジュリア・ルイス=ドレイファス)の友人のサラ(トニ・コレット)夫婦の描写。夫はパーティでエヴァが漏らした言葉を初対面の男性陣にばらして「魅力的な男はいないって言ってるよ」、帰りの車内でマッサージ師のエヴァに対して「勃起するやつはいないの?/俺なら勃起するから受けられない」なんて、私からすると何でこんなやつと一緒に居るの?って感じだけど、サラは彼との「セックス」について文句を言いながらも、我慢してるふうでも危機にあるふうでもない。そもそも上記のいずれの場面でも、エヴァやサラは彼の言動をさらりと流している。そういう人達がいたっていい。後にエヴァが自身の結婚当時の写真を見返しながら言う「欠点は知ってたけど、目をつぶってた」というセリフが、決して「悪いこと」として描かれていないのがいい。


とにかく会話がうまい。エヴァアルバートジェームズ・ガンドルフィーニ)の初デートでの、互いにがんがん踏み込みながらも痛くはしない、というようなやり合いには痺れてしまった。
ベッドでの事後に意を決したアルバートに「上に乗られてる時、息できる?」と聞かれ、「できる」と答えるも、彼は「ダイエットしなきゃ」。直前に元妻のマリアンヌ(キャサリン・キーナー)から「ダイエットに失敗してばかりだった」と聞いたところなので、見ているこちらは、どうせ口だけなんだろう、エヴァもがっかりしてるんじゃないか、と思う。でもアルバートは続けて「(結婚していた時は)嫌がらせにたくさん食べてた」。そっか、そういう展開もあるのかと、ふと視野が開ける。組み合わせによって人の在り方は色々なのだと思う。


エヴァが「現彼」のアルバートと「今友、現彼の元妻」のマリアンヌとの間で「板挟み」になる…具体的にはどちらにも「真実」を伝えられないのは、二人が嫌悪感を露わにし合っているから。
エヴァが「友達のいない(居ることは居るんだけど!笑)」マリアンヌのことを軽く見ているわけではないのは、自宅で「裸足」を取り入れてることからも分かる。マリアンヌの家に出向くとアルバートと電話で話している最中だという場面で、演じるキャサリン・キーナーの顔に非常に巧みな化粧がほどこされていることに突然気付き、映画の意図じゃないにせよ、当たり前ながら、彼女には彼女の意思があり、自分を自分なりに表現しているのだと思い、ここでも視野が開けた。


「子」世代の描写もよかった。同世代の女子が三人、三者三様。アルバートの娘は、エヴァと初対面での食事で、父親の好きなチリを食べさせるような店を「嘘でしょ?」と馬鹿にしてお洒落なレストランに変更させる。帰宅したエヴァが漏らすように「生意気」だけど、父親に「お前も子を産めば分かる」なんて言われて「私は産まない」と返す、その気持ちだってよく分かる(笑)


主役のジュリア・ルイス=ドレイファスはとても魅力的。予告編を見る度、知ってるけど名前を覚えていない女優さんなのかと思ってたら、知らない(認識していない)女優さんだった。そのくらい「知ってる」感がある。口角を上げるんじゃない、下げるキュートさというのもあるとしみじみ思う。彼女とトニ・コレットスカイプでやりとりする場面で、スクリーンがまるごとその画面になるのが、私も友達になったようで楽しい。でもあることを「頼む」時には顔を見ず、普通に電話で話すんだよね(笑)
ガンドルフィーニについては、瞳が素敵に撮られてるし、初デートの時にエヴァが誉める「ラケットみたい」な「手」が、初キスの場面で活かされてるのにぐっとくる。


二人が初デートで寄る「低カロリーのフローズンヨーグルト」のお店はメンチーズ。関東じゃ新宿にしか無いから、近くのシネマカリテでの上映ってのはいい(笑・遅い時間だったから寄れなかったけど)
そして「LIFE!」に続いてシナボンが登場。そういえば本作のキャサリン・キーナーの役柄は、「LIFE!」のショーン・ペンのそれにちょこっと通じるところがあるなと思った。「神秘性」が次第に剥がれて「人間性」が見えてくるあたり。「女」の「神秘性」は「セルライトがない!」ってことなのかな(笑・実際のキーナーにはありそうなのがいい、映画なんていいんだよね、それで)