クリミナル・タウン



アンセル・エルゴート演じるアディソンは、同級生のケビンが殺された事件の調査に対し「彼はギャングじゃない、読書をしてジャズバンドに入っていたから」と話すも警官がペンを動かす気配がないので「ちゃんと書いた?」と声を荒げる。警官は有益な情報を選り分けるのが仕事、校長先生は教壇から生徒に話をするのが仕事、カウンセラーはカウンセリングをするのが仕事、そこからはみ出るやりとりをしようとはしない。少しばかり「会話」をする頭があってもいいのではないか。


(以下「ネタばれ」しています)


アディソンによれば、ケビンは「哲学の授業で先生にかましたんだ、出席率が悪いと言われて『あなたのせいだ』ってね」(ケビンは「あなたにも一因があると言ったんだ」と口を挟む)。教師は生徒にものを言われるなんて思っていなかったに違いない。ギャングも同様、自分だけがもの言う立場だと思っていたからケビンを殺した(殺すよう示唆した)。世の中には相手と話をする気など無い奴がいる。そいつらは変わりはしない。作中唯一なされる謝罪は、母(キャサリン・キーナー)から娘フィービー(クロエ・グレース・モレッツ)への「あなたの話をちゃんと聞いていなかった」である。


作中アディソンは「Wild is the Wind」を何度も掛けるが、これは「ボウイ映画」ではない。ボウイが世界そのものではなく世界の一部、いわば礎となるまでの(それを是とする)話だからである。ケビンを亡くした両親に「理解できなくても私達は受け入れなければならない(なぜ君はそれ以上のことをしようとするのか)」と感情をぶつけられた彼が、やはり自分には母の時と同じなのだ、そして今はやれることがある、と決意してフィービーの家に車を走らせる時、彼が掛けたわけではない「Life on Mars?」が大音量で流れる(そうなのだ、変わりはしないのだ)。この場面には、ボウイを失ったことに慣れてきた私達をボウイが遠くから見守っているかのような感じさえ重なった。