推理作家ポー 最期の5日間



近年のジョンキュー主演作って、つまらなさそうと思いつつ足を運んでしまい、やっぱりつまらなかったというのが私としてはお決まりだけど、本作はつまらないというより、ジョンキューがひたすら浮いていた。もっとも邦題や冒頭のテロップにより「ポーが死ぬまでの話」と分かってるわけだから、心に馴染まない方が観やすくていいのかもしれない。


まず示されるのは、エドガー・アラン・ポーが死ぬまでの「最期の5日間」は今も謎のままである…という文章。公園のベンチに座りのけぞった、一応青白く頬のこけた顔のジョン・キューザック。これが何とも決まっていない。カラスと女の悲鳴で場面が変わり、夜の街に事件が起こったらしい。刑事が「どこかで読んだことがあるぞ」と一言。次いで酒場で荒れるポー。自分の詩を叫ぶことで、原題「The Raven」(大鴉)も早々に登場する。場面と場面のつなぎがきれいでスピード感もあるけど、私には「騒々しい」ように感じられた。


ポーは愛するエミリー(アリス・イヴ)が乗った馬車に押し入り、血や肉でもって例え話をして彼女の父親を激昂させる。後に訪ねてきたエミリーは、彼が机でいじくっていたものに目をやり「心臓?」と嫌そうな顔をする。こうした「傍から見たら『異常』なものが趣味」という点や、「自分に執着する者との対決」という点など、今ならどうしたってドラマ「シャーロック」を思い出してしまう。ポーの方が「ユーモア」を持ち合わせていることと、舞台が「当時」であること、「連載作家」としての立場が描かれてることなどが大きな違い、というか本作の特長かな。
一つの作品に「元ネタ」を色々盛り込むというのは「シャーロック」の他、広義には最近じゃ「タンタン」や「モリエール」なんかもその仲間と言える。でも本作は「模倣犯」の話だから引用のほとんどはストレートで、あまり「妙」は無い(…と思いながら観てたんだけど、私がポーの著作に詳しくないから分からないのかもしれない)。
それでは模倣された作家の心情はというと、何せ人質を取られて「5日間」の話だから、本人も周囲も解決にあせるばかりでそうした描写は無いのが少々物足りない。青白い顔であっちへ行ったりこっちへ行ったりするだけのジョンに見るところは無い。


本作のポーは、何だかんだで恵まれた境遇にあるとも言える。出版社の社長は彼の才能を認めた上で「あいつは酒瓶しか壊せない」と弁護するし、エメット刑事(ルーク・エヴァンズ)は始めから彼を疑わず友好的だし、ポーを毛嫌いしていたエミリーの父(ブレンダン・グリーソン)も、最後には事件について「舞踏会なんて開いた自分が悪い」などと反省し出す。
エミリーの「物分りのよさ」など驚くほどで、そもそも本作のジョンの間抜け面を見ている限り全然納得できないほどポーを愛しているのに始まり、「あなたには血の匂いがお似合いよ」と彼を力付け、捕らえられた際に叫び声をあげるも「黙ってろ」と言われると無意味だと悟り「ごめんなさい」と静かになる。窮地に陥っても知力体力で乗り切るヒロインというのは、最近じゃそう珍しくもないかな。


ジョンの代わりと言っちゃ何だけど、刑事役のルーク・エヴァンズが素晴らしかった。銃やつるはしを持って動き回り、時にはデスクワークもこなし、舞踏会での仮面姿や上半身裸での手術シーンも披露してくれる。副乳があるように見えたけど、ただのイボかな?
作中キーとなるのは「磁石」で、手術の際に「弾の位置を調べる」のに使われる他、刑事が犯人に辿りつくヒントにもなる。他にも当時の「技術」として、印刷機器や消防車のポンプなどが出てくるのは面白い。
それから、エミリーが捕まってとある目に遭う、映画じゃよくある場面において、突然「セット」を感じて、横開いてるじゃん!と思ってしまった(笑)