スノーホワイト



これは面白かった。誰が一番美しいとか、そんな話じゃ全然ない。女王と白雪姫がどちらも生き生きと描かれてるし、衣装もアクションも見応えあり楽しい。


退屈そうに庭を歩いていたお妃様が、バラで怪我をする。彼女は生まれる子が「バラのように強くなりますように」と願う。少女となった白雪姫は傷ついた鳩を救うなどして母親に「お前は大切なものを持っている」と言われ、そのまま育つ。「七人の小人」も、彼女の(「美」ではなく)この資質ゆえ、彼女を守る。
クリステン・ステュワートの白雪姫は泥の詰まった爪、動きづらいからとスカートを剥ぎ取って(剥ぎ取られて)も下にはちゃんとパンツを履いている(いわゆる「ポセイドン・アドベンチャー」状態にはならない・笑)。でも一番「今」の映画だなあと思ったのは、最後に女王に迫る白雪姫が、階段を一段飛ばしで上がるところ。その気負いの無い「普通」な感じが、見ていて気持ちよかった。作り手も何も意識してなさそうなところも。


一方の女王が母親から言われてきたのは「世界一美しければ、世界はお前のもの」。美しければ男を意のままにできるから、というんでは、「女を利用している」男と結局は同じ穴の狢だ。しかし、最後の「この悲惨な世界の女王は私」というセリフから分かるように、彼女にとって世界はずっと「悲惨」なものだった。世界が変わらないと思えば、自分が支配者になるしかない。
女王の鏡のアレは、「彼女にしか見えない」のだから、他者でも何でもない。アレが「あなたが一番美しいのも今日まで」と答えるのも、後の描写からして、白雪姫の牢に(入らずとも)通う弟の様子を見ていた彼女自身が導き出したもの、というのが私の解釈(笑)
このように、とくに女王側の「なぜこのようになったか」が執拗なくらい描かれる本作は、「鏡の女王」は「白雪姫」(の美しさ)に嫉妬するものだ、という「おとぎ話」の方が好きな人にはあまり面白くないだろう。「おとぎ話」は社会に影響すると思ってしまう私は、「女と女が争う話」には理屈があって欲しいから、この映画は面白かった。


それにしても、役柄も美術も衣装も、まさにクリステンのために作られたような映画だった。彼女の場合、白いのは肌じゃなく歯だろうとも思うけど(笑・いつも口開いてるから)
コスプレのグランジぽい着こなしが似合うこと!(まあ着のみ着のままだから汚くもなる・笑)前半、船着場で女の子と片膝付いて話してる場面なんて、彼女の宣財みたいなもんだと思う(笑)草むらに横たわる姿を高い視点で見下ろした画、すんなりした足の裏をこちらに向けた寝姿、そしてお馴染み?の、仰向けになって反らした顔、どれもばっちり決まっている。
女王役のシャーリーズ・セロンも素晴らしく、冒頭「ハンサム」な青年の心臓をつかむ場面の顔付きから惹き付けられる。美しい姿を彩る「邪悪」な曲がった剣や爪(白雪姫たちのそれは勿論真っ直ぐだ)。斬り付けられた彼女が粉々に砕け、カラスの群れになって舞い上がる場面の面白さ。
最後に二人が対峙する場面も、変な言い方だけど、とても「自然」で良かった。その後、おそらく初めて「鏡」(に映る「自分」の姿)を見る白雪姫のカットも印象的。


「女」の描き方についてつらつら書いたけど、そういうこと抜きにしても、アクションものとして結構楽しい。攻城戦も見られたし(笑)
「男」については、確かに数は出てくるも、原題「Snow White and the Huntsman」の「the Huntsman」に当たるクリス・ヘムズワースはともかく、ウィリアム王子は貧相すぎる。更に贅沢を言うなら、女王に、あんなしょぼい弟じゃなく(まああれはあれで居てもいいけど)、最後まで彼女を慕って死んでいく誰かが居ればなあ…なんて、山岸凉子の「妖精王」を思い出したり。それじゃあメロドラマすぎるかな。