公開初日、武蔵野館にて観賞。原作を「読んでしまった」ためにどうしても比べてしまい、物足りなかった。しかし仮に読んでなかったとしても、違和感は覚えたんじゃないかと思う。
1960年代初頭のミシシッピ州。作家志望のスキーター(エマ・ストーン)は、大学を卒業し、地元の新聞社で家事のコラムを代筆する職を得た。家事に疎い彼女は友人宅の黒人メイド(=「ヘルプ」)、エイビリーン(ヴィオラ・デイヴィス)の助けを借りる。やがてスキーターは黒人が虐げられている状況に疑問を感じ、ヘルプたちの証言を集めて本にしようと思い立つ。
原作は少々苦い味わいなのが、予告編はコメディぽく編集されてたから、どんな軽快な映画になってるのかと楽しみにしてたら、そうでもなく、とはいえ「甘く」はなってたから、どっちつかずで物足りなく感じてしまった。
甘いっていうのは、差別問題がどうとかじゃなく、その中での、ヘルプと雇い主、主人公と母親、といった個人の関係について。例えばヘルプのミニー(オクタヴィア・スペンサー)が雇い主のシーリア(ジェシカ・チャスティン)に、単に大きな子どもに対するように接していたのに少々違和感を覚えた。原作では始め馬鹿にしてたのが、とある「事件」を経て変わってゆくのがリアルで良かったんだけど、映画ではそれがあるセリフのやりとりに置き換えられている。
スキーターと母親(アリソン・ジャニー)との間にしても、原作じゃヘルプたちに話を聞きに出掛けるのに毎度ウソついて苦労してたのが、平気で外泊してる。これは彼女が自分の「居場所」を選択する(そこに「苦さ」がある)話なんだから、その切実さも欲しかった。
当時の衣装や食べ物などの描写は見ごたえがあった。上流階級の白人女性のバービーみたいなドレスの数々。スキーターは「女っぽくない」という設定なんだろうけど、登場時の上着とセットのワンピースなどどれも私好みだった。
一方のヘルプについては、エイビリーンのすごい脇汗が印象的。原作には他の季節もあったけど、映画の中はほとんど夏。原作では、暑がりの彼女は夏でもストッキングを履かなきゃならないことを愚痴る。映画で「実物」見たら、確かにあんなもの履いてらんないよなあと思う。エイビリーンの家を初めて訪ねたスキーターが「私服は初めて見たわ、すてきね」「ありがとうございます」なんて、ああいうやりとりもいい。胸元に紐?の飾りがついた、シンプルなワンピースだ。
料理の中で一番そそられたのは、スキーターが初めてのエイビリーン宅で出してもらうクッキー。ほんわかあったかそうだった。ああいう、自宅用だけど来客用、というのってすごく美味しそうに思われる。
それからスキーターの実家!階段をくるくる上る彼女をカメラが追う。あのだだっぴろい、風通しのよさそうな、でも息苦しい感じ。あんな上流階級じゃないけど、自分の実家を思い出してしまった(笑)
一方スキーターの憧れる「ニューヨーク」は、メアリー・スティーバーゲン演じる編集者による「電話の向こう」でもって描かれる。摩天楼をバックにオフィスの机に腰掛けてるの、ベッドで華麗にガウン羽織ってるの、お箸を使うレストランで男二人を従えてるの。少々大仰なところが可笑しい。
ヘルプがお金の話を口にすると、夫は朝食の席を立ち、このことを「女」の話にしてしまう(妻もそれを当然としている)のが印象的だった。ミニーに暴力を振るう夫の「姿」を映さないのも正しい。本作では暴力に限らず「汚い」ものは直接映さないが、それで十分分かる。
小さなスキーターとヘルプだったコンスタンティンとの場面には涙がこぼれてしまった。二人が腰掛けて話してるだけなのに。コンスタンティン役のシシリー・タイソンの魅力と、光を活かした画の素晴らしさ。一方終盤にスキーターの母が明かすコンスタンティンについての「真実」のくだり(原作とは全く違う)は、少々やりすぎに感じて白けてしまった。
最後にエイビリーンがヒリー(ブライス・ダラス・ハワード)に言い放つあのセリフは原作には無い。その後のヒリーの表情を捉えたカットも含め、映画の作り手は、ヒリーの側の問題を大きく取り上げることにしたのだろう。そうしないと、「今」にしてみれば彼女はたんなる馬鹿みたいに見えるからだろうか?
そもそも私は原作からヒリーのキャラクターをさほど重要だと思ってなかったから、ポスター(を使用した文庫の表紙)に彼女が入ってるのはなぜだろうと思ってたんだけど、映画を観た後だとあの図も腑に落ちる。
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