ヤング≒アダルト




「彼とよく古着屋でLLサイズのTシャツを探しまくったものよ」
「それこそ90年代ね!」


公開初日、新宿武蔵野館にて観賞。ほぼ満席だった。


「恋」とか「女」とかいうより、まずは故郷を出た者の物語。広義には、自分の立ち位置は自分にしか決められないって話。自分を見ているようで、最初から最後まで胸がいっぱいだった。仕事や美は無いし、あんな汚い部屋、我慢できないけど(笑)それでもやっぱり、そこに私が居た。


オープニングからタイトルが出るまで、音楽は無い。窓辺には缶の跡の輪っか、クローゼットには不揃いなハンガー、昨夜の男の横で目覚めたメイビス(シャーリーズ・セロン)がある決意をすると、音が鳴り始める。タイトルバックにはカセットテープ。彼女は車の中で、「彼」からもらったTeenage Fanclubの「The Concept」を何度も巻き戻して聴く。


メイビスの暮らすミネアポリスがどういう都市か、私は知らない。「故郷」のマーキュリーまで車でどのくらいなのか分からないし、見ていても距離がつかめない。そう遠くないように思われる。物理的には、たったあれだけの距離。
車窓から立ち並ぶ店(ケンタ!タコベル!ピザハット!合わせて「ケンタコハット」)を横目に、メイビスは慣れた様子で一軒のバーを選ぶ。店頭にはgo wild!なんて書いてある。Lemonheadsの「It's a Shame about Ray」が流れている。今時なぜ?と思っていると、後に「彼」やメイビスの従兄弟いわく「あの店はもう古い」。でもメイビスと、高校時代にとある「被害」を受けたマット(パットン・オズワルト)は幾度もそこを訪れる。二人の時は、違う風に止まっている。
都会で「最先端」の暮らしをしているはずのメイビスが、「古い」言い方を周囲に何度も突っ込まれる。彼女こそがどこかで止まっているのか、あるいは故郷に戻ると認識を上書きする気がなくなってしまうのか。同様にマットも「止まっている」が、それは事情が違う。彼の「エッチの森」(戸田奈津子のすごい字幕)での「君がヤった男たちが…」、自室での「あの頃は史上最高の僕だったのに」というセリフと飾ってある写真には、作中最もショックを受けた。


パトリック・ウィルソンによる「彼」の、ただかっこいいだけの男ぶりがいい。散々呼びつけてるマットのことを「キモい」と言ってのけるメイビス(この時のシャーリーズ・セロンの顔の醜さが素晴らしい)に同調する、あの感じ。「彼」はメイビスにとって聖域、お守りだったんだろう。触れてはならないものなのに、ぶつかっていってしまった。久々に再会して飲んだ後、帰ろうとする車に寄りかかって誘うメイビスの姿には、セックスが日常である生活をしてると、そうじゃない相手の方が「変」に感じられるものだ、ということを思い出した。
終盤、メイビスが「彼」の家のパーティでぶち切れる場面は、私にとって、そのこと自体よりも「彼」や周囲の反応が見ものだった。「皆きみのこと、おかしいと思ってるよ」…あれ?と突然足元がぐらついて、こいつらだって同じじゃない?信じるに足るものって、別に無いんじゃない?と、考えたら当たり前のことを思う。最後には更に違う立ち位置の者が出てきて、その感覚が強固になる。あの、傍から見たら何の解決にも前進にもなってないラストが、私には好ましく思われた。だってそうでしかいられないもの、ムリすることない。日頃の「またダメ男ものかよ!」という鬱憤が晴れた感じ、私は「女が頑張らない」映画が観たいんだもの。容色がいいだけマシだろと思う(笑)


故郷に居るのに実家に寄らずホテルに泊まる!私も何度かやった(笑)しかし「ママ」の車に見つかって一緒に「帰る」はめに。家に入ったメイビスの後ろのドアは開けたまま。もしかしたらそういう土地柄なんだろうか。
食卓に座るなり「私、アルコール依存症かも」と口にするメイビス。言えるんだからいい。両親の、彼女の過去の結婚についての見解が良かった。メイビスが「もう別れたんだから結婚写真は外してよ」と不満を漏らすと、母「いい経験だったじゃない」父「いいやつだったじゃないか」。しかしメイビスは自分に「味方」してくれないことに文句を付け、物語の最後にやっと「味方を見つけ」て安堵する。こういうふうに、彼女の弱さが貫かれてるところがいい。


メイビスがホテルに落ち着いてすぐ買い込むアイスが、4月に「日本初上陸」するベン&ジェリーズのものなのがタイムリーだ。食べ物といえば、始めに触れた「ケンタコハット」がやはり印象的で、昔読んだ「デブの帝国」(asin:490178420X)や「ファストフードが世界を食いつくす」(asin:479421071X)などを思い出した。ケンタッキーで「ヤケ食い」するメイビスが、暗い窓の方を向いて山盛りのトレイを前にしてる姿が心に残った。そっち向くんだと。


観賞後に同居人と話してたら「(500)日のサマー」が例にあげられた。いわく「『サマー』は、男目線の物語でありながら女の方にも一生懸命寄り添ってる感じ、『ヤングアダルト』は、女目線で男に寄り添う感じは全くない、でもそれがクールで、映画のプロが作ってるって感じ」。なるほどそうだなと思った。