大鹿村騒動記



楽しかった!私も婆さんになったら、原田芳雄と店の台所の小さな机で一緒にごはん食べながら暮らしたい。


おそらく前年の「大鹿歌舞伎」の模様に続いて、うねる山道を車の視点で村へ入ってゆくオープニングに、愛情のようなものを感じ、面白そうと思わされる。
第一村人はバスの運転手役の佐藤浩市。何だか違和感を覚えるのは、彼が「青年」役だから。しかし爺天国の中で、次第に瑞々しく見えてくる。これが「青年団」的マジックか(笑)
リニア誘致の会議において「若者を呼び戻す」という話題が出るので、過疎の問題を抱えているんだろうけど、瑛太らが登場することで、(映画を観ている間は)将来どうなるんだろうと考えずに済む。ただ、爺の伴侶である婆が出てこないのは少々不自然に感じられた。


ヒロイン・大楠道代の細いこと、並ぶと松たか子が一層、健康優良児に見える。佐藤浩市と同じ枠だから効果的だ。
大楠演じる原田の妻は「病気」によりぱけらったとしているが、「我に返った」時の声や仕草は「良妻」のそれだ。駆け落ち相手の岸辺一徳がつい口にしてしまった「嘘」の内容、「善ちゃん(原田)、お金のこと、全部彼女に任せてたろ?」というセリフ、また彼女自身が夫に漏らす「あの人は私を女として見てくれたから…」という告白などから、かつてはそれなりに苦労したんじゃないか、ぼけてやっと「ラク」になったんじゃないか、と思ってしまう。もっともこうした事情は、彼女が「悪い女」じゃないというエクスキューズにもなってるけど。


リニア誘致をめぐって小倉一郎と対立した石橋蓮司は、もう歌舞伎に出ない!と言い出す。「リニアと歌舞伎は関係ないだろ」「直接的には関係ないけど、直接に近い間接的には関係あるんだ」とのセリフが、その場では単なるギャグに感じられるんだけど、後々効いてくる。村は一つの生命体なのだ。タイトルは「大鹿村を舞台に起こる騒動」というより「大鹿村そのものの騒動」という意味だといえる。
皆の問題とリンクした内容の歌舞伎の見せ方もいい。90分の上映時間があっという間で、席を立つのが名残惜しかった。