Peace



猫がいっぱいの予告編からはどんな映画だか分からなかったけど、想田監督のこれまでのドキュメンタリー、面白かったなあと思い観に行った。


監督の妻の両親の姿を追ったドキュメンタリー。岡山県に暮らす二人は、障害者や高齢者を車で移送する「福祉有償運送」やヘルパー派遣の仕事に携わっている。夫の寿夫は家に現れる野良猫たちにエサをやり続けていたが、一匹の「泥棒」により調和が乱れていた。


まず単純に、ドキュメンタリーを劇場のスクリーンで観るのっていい。とくに想田監督のは、煩くないから自由に楽しめる。自然光から何時くらいかな?と想像したり、画面の隅に面白いものを見つけたり(91歳の田中さんのベッドの脇の缶ソーダとか・笑)。長回しのうちに現れる、通行人による町のひとコマ。もっと長いスパンで言うならば、追い続けるうちにふと飛び出してくる、誰かの思い。
監督が走るのか画面が揺れれば頭がくらくらし、登場人物が監督に話しかけ、監督がそれに応えれば、映像にそれまでと違った空気が流れる。前二作にはあまりなかった、「揺らぎ」というか「若々しさ」を感じた。


「福祉有償運送」に儲けはない、むしろ毎月赤字の状態だ。それでもなぜ続けるのか、との問いに寿夫は「惰性でしょうね」と言う。田中さん宅を訪ねた廣子は如才ない会話の合間に鯵とナスを焼き、駐車場代が一時間分しか出ないことを嘆く。
寿夫は、猫にエサをやるのに市販のお弁当容器を使用している。牛乳を添えるのは、元教員ならではの発想かな(笑)時に庭石に直接キャットフードを置くのが気に掛かっていたら、案の定、妻に「近所の人に迷惑かけないように注意すると、私が悪者になっちゃうんだから」「そこが大嫌いなところ」と言い放たれる。「いいこと」してる人が家族にとって完璧であるとは限らない、当たり前のことだ。それを背中に聞きながら横になったままの夫の姿はまさに「フォトジェニック」、こんな場面に遭遇できるなんて監督は運がいい(笑)


91歳の田中さんは「Peace」を吸い続ける。野良猫たちは「泥棒」を受け入れ、新たな共同体が生まれる。色々な物事を盛り込みながら、どこか円環のようなものを感じさせる映画だった。