ソウル・キッチン



ファティ・アキン監督作。ハンブルクのレストラン「ソウル・キッチン」のオーナーと、彼をめぐる人々を描いた物語。とても良かった。


一見おばさんみたいな主人公ジノス(アダム・ボウスドウコス)がトラックを店につけるオープニングから、なぜか分からないけど、猛烈に「懐かしい」感じがする。それは最後まで続く。俗な言い方だけど「古きよき」…かなり「泥臭い」コメディ。
トラブルに対処しながら、汚いキッチンで冷凍食品を温めては客に出す。店はそれなりに賑わっている。頭カラッポにしてぐるぐる回ってるみたいで気持ちいいことは気持ちいい、でもこんな繰り返しはちょっとヤだ、何か変化が欲しい、と思わせられる。そこから話は転がり始める。


冒頭の集まりやその後の会話から、ジノスと兄(モーリッツ・ブライブトロイ)がギリシャ系だと分かる。理学療法士として営業するトルコ系の女性や上海からやってくる中国人男性など、登場人物は監督ならではの「国際色」豊かな顔ぶれ。
ハンブルクの観光映画としての一面もある。屋外のシーンでは曇天が多い。「不法滞在」中のウエイトレスのルチアは、赤レンガの倉庫街のビル住まい。彼女を送ったジノスがベランダへ出る際、周囲が一望できる。不動産業を営むジノスの元同級生が電話しているシーンでは、最後に突然カメラが引いて遠景になる。金回りのいい人達がオフィスを構える場所なんだろう。ジノスとルチアが夜中にクラブに出掛ける際、着いて来た兄は「ここ昔はデパートだったよな、物事は留まってないもんだ」と言う。


ジノスには「体臭」がつきまとっている。ナディーンの送別会に向かう際、店の匂いが染み込んだ革ジャンを一応嗅いでみる。そのまま高級レストランの席に着くと、親族に気付かれ脱がざるを得ない。その帰り、彼と抱き合ったナディーンは、くつろぎながらもその匂いを指摘する。
上海に赴任するナディーンにスカイプの使い方を教えられても、「じかに触ったり匂いを嗅いだりしたい」ジノスは気乗りがしない。空港での長ったらしい別れのシーンがいい。ちなみにジノスは何かというとお尻や脚のことばかり言うが、そういう男には、模型とでも付き合ってろ!と一喝したくなる(笑)
スカイプ使用中の「大事なことだから、近くに寄って」というセリフも印象的だった。ディスプレイ越しなのに、私なら言うかな?いずれにせよ、スカイプで結構、のナディーンと「前時代」的な彼とは合わない。ラストシーンでは、肉体を直接感じたい者同士がクリスマスを祝うのだった。


恋人を追って行く決意をしたジノスは、ルチアに「店をやらないか」と持ちかける。彼女は「私は自由に絵を描いていたいから」と断る。皆それぞれ大切なものがあり、レストランはそれらが交差する場所。終盤のパーティはとても楽しそうで、参加したくなった。
また、冷凍食品ばかり出していた頃の常連客が「ちゃんとした料理」にそっぽを向いて出て行った後、美味しい料理に「改心」する、というシーンがないのもよかった。
そして、さすらいの料理人を演じたビロル・ユーネルのかっこよさ。ああいう軽い役もいいなと思った。


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いい曲たくさん流れたけど、エンディングに流れるJan Delay「Disko」がしばらく頭から離れなかった(笑)