デザート・フラワー


もう10年以上前、女性誌の書評欄でトップモデル、ワリス・ディリーの自伝「砂漠の女ディリー」が紹介されていた。興味を持ったけど、いまだに読んでない。先に映画化された本作を観ることになった。

砂漠の女ディリー

砂漠の女ディリー



1978年のソマリア。老人男性との結婚を強制された少女ワリスは砂漠を越えて逃げ、ロンドンへ渡り、その後帰国を拒否し路上生活者となっていた。
ある日彼女が出会うのが、最近では「17歳の肖像」にちらっと出てたサリー・ホーキンス演じるマリリン。ダンサーを目指しながらtopshopで働いている。その時代、女二人の友情、彼女のストリート系のファッションから、不意に「マドンナのスーザンを探して」を思い出した(全然違う話なんだけど)。
しばらく友情ものとして楽しく話が進むんだけど、とある場面で、この映画の主題が「FGM(女性器切除)」の告発だと分かる。女同士で性器を見せ合うシーンが丁寧に撮られている。それを見たらどうしたって、ワリスはその問題にどう向き合っていくのか?今現在、その問題は世界的にどうなっているのか?が気になってしまうけど、映画はその問いにきちんと答えてくれる。ワリスが「人生を変えた一日」について語るシーンでは、作中の記者と同様、私も涙が止まらなかった。
ワリスの「告白」の切っ掛けになるのが、マリリンのいわゆる「遊び」のセックスだという点が良かった。また終盤、初めて裸の写真を撮られるワリスは、以前出会ったとある男性の幻に触れてキスをする。女がセックスをする時、裸になる時、それは自らの快楽のためで「も」あることが示されている。


ワリスを「発見」する人気フォトグラファー(ティモシー・スポール)は、その横顔について「究極の美」と評するけど、私にはよく分からない(演じているのは現役モデルのリヤ・ケベデ)。作中一番「美しい」と感じたのは、廊下でウォークの練習をしている時のマリリンの横顔だった。仕事の描写はさらっとしてるけど、ワリスは「モデルのプロ」なんだろうなあと思う。


ワリスに「偽装結婚」を申し出るのが、いかにも「イギリス男」って感じのニール。あんなにも自分の性的魅力に無頓着でいながら他人に迫れるなんて、ある意味羨ましい。「世界一の美女が隣にいるのに指一本触れられない」なんて言ってるなら、その匂ってきそうなカッコをやめろよと(笑)悪い人じゃないんだけど、彼の言動の変化は観ていてとても恐ろしかった。「権利」を持つと、人は次第に相手を思いやる気持ちがなくなる。


最後のスピーチにおいて、ワリスは「お母さんを、家族を愛してる」と言うんだけど、父親についてはどう思ってるんだろう?原作には記述があるのかな?今更ながら読んでみたい。