悪人


とても面白かった。私は映画「マディソン郡の橋」が大好きなんだけど、あんなに洗練されてはいないけど、ちょっと思い出しながら観てた。
ただ柄本明樹木希林のパートは、正直要らないなと思った。妻夫木聡深津絵里のラブストーリーとして観てたし、タイトルの「悪人」も、深津絵里の最後のセリフからの抜粋としか受け取れなかった。



冒頭、祐一(妻夫木聡)が爆音で飛ばす白いスカイライン。クルマ目線のカメラは妙なほど低く、道路すれすれを不安定に、猛スピードで走っていく。そして、そこから始まる登場人物の暮らしの描写の、圧倒的な地べた感。満島ひかりが女友達と居酒屋で「鉄鍋餃子」を食べる。妻夫木聡が叔父の運転する車で山道を作業に向かう。このあたり最高に面白い。
後半は音楽もエピソードも、結構センチメンタルになってくる。夢で観た「二人が暮らす家」なんてびっくりしたけど、光代(深津絵里)に「描いて描いて」と言われて小声で「それはちょっと…」と返す妻夫木聡がとても可愛かった(笑)


「出会い系」は私も昔やってたことがある。色んな人がいて、皆がむき出しの状態って感じ。だから、誰かと誰かがぶつかって、からまって、離れ難くなるというのはありそうなことに感じられる。
妻夫木聡深津絵里の演技はわりと一本調子だけど、ぐっとくる。「送ってくれてありがと、うちに着いたらメールちょうだいね」「なんにもしてあげられなくてごめんね」なんていう、ありふれたセリフがいい。


映画の面白さの一つに、登場人物の感情をなぞってるつもりでいたのに、気付けなかった部分が不意に表れ、驚かされる瞬間、というのがある(突飛なものでなく、なぜ思い至らなかったんだろう?という適切なものの場合)。この映画では、終盤「あなたがあんなことしなければ」と言われた祐一が吐露する心境や、最後に光代がする行為。私にとっては観ながらも抜け落ちてた部分であり、その気付きが快感だった。


「カラフル」の感想の最後に「母親が家族全員のパンにバターを塗るシーン」について書いたけど、こちらでは、妻夫木聡が、樹木希林がおつゆをつけてる間に彼女の分のごはんをよそう。その後の食事シーン含め、あれが「普通」だよなあ。あちらの食卓は息苦しかった。