彼女が消えた浜辺


テヘラン郊外の海辺に休日を過ごしにやってきた男女。気心知れた中に、ほとんどの者が初対面のエリという女性が参加していた。仲間の一人が、訳あって子どもの保育園の先生を誘ったのだ。やがて子どもが溺れる事件が発生、命は取り留めたが、近くにいたエリが姿を消してしまう。



予告編から、近年で例えるならイラン版「湖のほとりで」のような感じかな?と思ってたんだけど、違ってた。トラブルに巻き込まれた人々の混乱を描いた、とても面白いタイプの映画。


冒頭、プジョーBMWの窓から顔を出して風を受ける女性たち。ヒジャブにサングラス姿なので、口元に目が行く。きれいにふちどられた唇、真っ白に揃った歯。エリの手にはルイヴィトンのバッグ。足元の多くはジーンズにスニーカー。ヒジャブにサンバイザーって、落ちないのかな?


予約したコテージでなく浜辺のボロ屋を使うことになった彼らは、荷物を運び入れ町で買い物をし、初日の晩を迎える。何てことない作業の様子が面白い。
皆が参加する「身振りゲーム」の描写の長さ、そして二日目の、エリのどこか気が引けた素振り、帰りたいと言うが却下される(!)あたりから、どこか不穏な空気が漂う。そして事件が起こる。エリの捜索シーンは、海の事故のリアルさが感じられ、どきどきさせられた。
ふと疑問が生じる。彼女は単に、黙って帰っただけなのでは…そこから始まる仲間内の混乱が映画のメインだ。推理したり言い合ったり、外部に嘘をついたり。映画の前半における、彼女のちょっとした言動を、観ている私も一緒に思い出し考える。
エリを半ば無理に誘ったセピデーの言動は、私からするとあっけに取られるものばかり。しかし彼女の夫の「皆何かっていうとセピデー、セピデーと頼むくせに」というセリフから、仲間の中心である彼女はつい「頑張って」しまうのだと分かる。


事故自体はどの国でも起こりうることだけど、それが多大な混乱を招くのは、エリの「婚約者がいながら男性との旅行に参加した」行為を皆が「罪」と捉えているから(もっともそれを知ってて誘ったセピデーのような人も居るわけだけど)。日本人の私にはぴんとこないけど、イランというのはこうなんだなあと思わせられた。幾らブランドもののバッグを持って、海辺でスポーツできても、婚約解消が難しいんだから。ヒジャブを「おしゃれ」と捉えることはできても、こうしたことはいかんともしがたい。