シスタースマイル ドミニクの歌


プレスリーより売れた」という「ドミニクの歌」も、話の内容も知らずに観に行った。そしたら音楽や、歌われている「神」についての映画じゃなく、才気と魅力に溢れた女性が世間と衝突しまくったあげく、最後にある境地に達し「幸せ」になる話だった。



60年代の大ヒット曲「ドミニク」を歌った「シスター・スマイル」の物語。
50年代末期のベルギー。家を飛び出し修道院に入ったジャニーヌ(セシル・ドゥ・フランス)は、規律に馴染めないながらもギター片手に「ドミニク」を作曲。教会側の思惑もあってレコードデビューを果たし、有名人となる。


冒頭、汗まみれでサッカーに興じるジャニーヌ。日焼けしたたくましい腕と脚、眼鏡もありセシルと分からなかった(前歯で確認)。そんな彼女の下敷きになった友人アニー(サンドリーヌ・ブランク)が顔を赤らめる。家では同居している従妹が、同じベッドで寝ながら「足をくっつけるといいのよ」と擦り寄ってくる。同性愛的な映画なのかなと思ったら、示唆されるだけでなく、最後までそれが柱となる。ただし「スパニッシュ・アパートメント」でセシルが演じたような明確な「レズビアン」とは違い、彼女自身は性欲も薄く、誰かを愛することもない。愛されることでも満たされない。そういう人だっているだろう。


ジャニーヌは家でも修道院でも、食卓のスープに「塩気が足りない」と文句を言う。運動してるからかな?と思ったんだけど、振り返ってみれば、この言動に「提供されたもの」では満足できない彼女の性分が表れている。
才気溢れるジャニーヌは「結婚してパン屋を継ぐこと」を強いる母親とウマが合わない。アフリカへ救援活動に行こうか、美術学校へ行こうか、など色々考えたあげく、信仰心が厚いこともあり家出して尼僧見習いとなる。
当時の修道院は、母親に言わせれば「男と世間が怖い女が逃げ込む所」。高い塀と頑丈な扉で囲まれ、余暇も面会もほぼ許されない。ジャニーヌは規律に反抗して大騒ぎ、マザーじゃなくても「なんで来たの?」と思うだろう。
彼女いわく「人生の意味を求めて」。エネルギーが満ち溢れているのに何をどうしたらいいか分からず、要領も悪く、「バカには負けないわ」と勝気。その真面目さを痛々しく感じた。


家を出る前、ジャニーヌは馴染みの神父にその道に入った理由を聞き、「本能のままに」と返される。その通りに家を出た彼女だが、どこへ行ってもその心は壁にぶち当たり、満たされない。最後に教会に戻り「誰かを愛したい」と泣く彼女に、神父は「これまで全て強固な意志のもとでやってきたんだから、愛することだってできる」と言ってのける。そしてジャニーヌは、かつて「愛を感じない」と「捨てた」アニーの元へ戻るのだ。
あれだけあがいてきた彼女が、最後は意志でもって安らぎを得ようとする。身辺整理を済ませた二人の顔は「幸せ」そうだった。


マザー(修道院長)が隠れて、あるいは意地汚さそうに食べるお菓子(クッキーとプチシュー?)が美味しそう。彼女の、いい・悪い/敵・味方とはくくれない人間らしさが面白い。