やさしい嘘と贈り物


アメリカの小さな町に暮らす老人ロバート(マーティン・ランド―)は、スーパーに勤めながら、独り身を寂しく感じていた。
ある日、向かいに越してきたメアリー(エレン・バースティン)と知り合い、デートを重ね親密な仲になる。実は、彼女は認知症のロバートが忘れてしまった妻だった。


(劇場に認知症関連の書籍が置いてあったし、リーフレットにそうした記述もあるから、「ネタばれ」します)



二人が「イチから」デートを重ねる前半は、楽しそうだなんて、罪深い観方をしてしまった。私は(たとえ付き合って一ヶ月の相手であっても)「他人プレイ」をしてみたくなるし、「向かいの家に帰る」って気楽そうだし、「リタイア」してるから日がなデートができる。
おしゃれなレストランで「(小声で)実はこれ、マズいの!」なんて言って笑い合う。プレゼントを贈り合う際、ロバートがこれ!というものの他にこまごま用意するのは、もともとの性分なんだろう。そういうのって変わらないものだ(笑)これらのシーンに、彼等の過ごしてきた長く豊かな時間を思った。


とはいえ始めのうちは、あまりに上品すぎる絵空事に感じられ、話に入り込めなかった。ロバートを取り巻く人々の言動は邦題通り「やさしい嘘」なんだから、作り物めいてて当然なんだけど、セットや音楽、撮り方などが、私にはファンタジーすぎた。手の届かない棚にまで間隔を置いて並べられた器の数々(後に、おそらく妻の手によるものだろうと分かるんだけど)、出来すぎのコメディ然とした仲間のデート指南、「ロバートからロバートへ」の贈り物の中身、そりのデートで流れるアヴェマリア!(ただし音楽の多くは、ロバートの目覚ましのラジオから流れるものに繋がっているので自然に聴ける)
でも、まずは、マーティン・ランド―とエレン・バースティンが互いの名前を教え合うシーンで、胸がいっぱいになった。役者の力ってすごい。中盤、二人が「初めて」キスを交わすと、イルミネーションがぱあっと輝く。もうそんなもの、気にならない。
そして、物語の最後に「家族」が登場し、画面にバラの花びら?が舞い散るのが、まるで(作中キーとなる)スノードームのようで、こういう箱庭的ファンタジーなんだなと思った。


認知症のロバートの脳内?を表す、シナプスをイメージしたような映像に、なぜかドラマ「悪魔のようなあいつ」でジュリーが倒れるシーンを思い出してしまった(笑)ちょっと古臭い感じ。
ロバートが真相を知るクライマックスはまるで古い恐怖映画の趣で、脳こそが恐怖の根源なんだとつくづく思い知らされる。


一つだけ分からなかったこと。冒頭から何度か画面が分割される。中盤、ロバートとメアリーがそれぞれのベッドで眠りに着くシーンにも使われており、そっか、一緒に居た頃は寝る時の「位置」が決まってたはずだから、それを表してるんだなと思ったら、後半、実際に判明した「位置」はそれとは違ってた。ちょっと納得できない…