家族の庭



初老の夫婦、地質学者のトム(ジム・ブロードベント)とカウンセラーのジェリー(ルース・シーン)はロンドンで二人暮らし。休日には市民農園を耕し、料理を作り合って食べる。二人の家には色々な客がやってくる。


冒頭、仏頂面とはこのことという感じの婦人(イメルダ・スタウントン)が問診を受けている。「睡眠薬はくれるんでしょう?」「不眠は病気じゃないわ、原因を知らないと、カウンセラーと話してみて」と彼女が送られた先が、ジェリーのデスク。頑なな彼女とのやりとりの後にジェリーは「強制はしないけど」と付け足す。


本作も、今年の予告編サギ大賞の一位候補だ。マイク・リーの映画なんだから、ただの「ハートウォーミング」ものじゃないとは思ってたけど。「これは予告編のあのカットか〜(上手く使ったよな〜)」といちいち思いながら観てしまった(笑)
仕事を終えたジェリーを、メアリー(レスリー・マンヴィル)が「飲まない?」と誘う。同僚同士のちょっとした付き合いに思われるけど、映画が進むにつれ、メアリーの「痛さ」が露わになってくる。家を訪ねて来ては途切れることなくワインを飲み、男運の無さを嘆く。夫婦は同情するでもなく叱咤激励するでもなく、ただ温かい「場」を提供する。
「恵まれた」家庭に、そうじゃない人たちがやってきてもてなされるが、自らは恵まれることなく(作中では)終わる。面白い映画だと思ったけど、主人公の職業が「カウンセラー」というのがちょっと出来すぎというか、私にはいい感じがしなかった。観終わって、「キッズ・オールライト」でマーク・ラファロが「自分の家族は自分で作りな!」と追い出されるシーンをふと思い出した…というか、あの無骨さ、ストレートさが懐かしくなった。


妻を亡くしたトムの兄の家を、数年ぶりに訪ねる二人。彼らの「甥」は渋滞とかで葬式に遅れ、その後に家にやってきても暴言を吐いて出席者たちを帰らせてしまう始末。一見して「問題の息子」だが、父親に対する「そんなこと言うなら、生きてる間にお袋を大事にしてやれよ」というセリフから、この場面だけじゃ彼ら家族のことは分からないと思う。観る側にとってのこういう「手掛かり」が、マイク・リーの場合、他の映画とはちょっと違うニュアンスを感じさせる。
ジェリーが「甥」に「どこに住んでるの?」「仕事は?」とあれこれ聞いて怒鳴られる場面が良かった。私もうるせーなと思ってたから(笑)「幸せ」な人は、よくできた性格だから「幸せ」なわけではない。


もし私がメアリーなら、家も仕事もあれば容色だっていいんだから、くさらないし、夫婦の家にも行かない。勿論「私なら」なんて無意味なところが、世の中の世の中たる所以なんだけど。
「パートナーが欲しい」と愚痴るケンを演じるピーター・ワイトは、イギリス映画じゃ馴染みのおデブ。夫婦の息子とその恋人役も見覚えあるなと思ったら、揃って「ハッピー・ゴー・ラッキー」(感想)に次いでの出演だそう。皆いい顔、いい演技だった。