マイレージ、マイライフ



年に322日の出張をこなすライアン・ビンガム(ジョージ・クルーニー)の仕事は、リストラ宣告人。航空会社のマイレージ1000万マイルを達成する日を夢見ていた。目標到達間近の彼の前に、同様に国内を飛び回るアレックス(ヴェラ・ファーミガ)、社に「出張廃止」案を提出した新人ナタリー(アナ・ケンドリック)が現れる。


ジョージ・クルーニーって苦手だけど、初めてかっこいいなと思った。顔も体もすっきり絞られており、笑顔もキュート。「笑顔のすてきな人」が好みというヴェラ・ファーミガが、彼を求めるのも分かる。「人との繋がりを求めない」、「ホーム」を持たないからこそ、それこそ「見た目が10割」状態なのかもしれない。実際、心境の変わったラストシーンの彼の顔には、それまでになかった疲れと老いが現れている。


予告編にかぶさる文句「あなたの人生のスーツケース、詰め込み過ぎていませんか?」から、「マイルを貯めることが生きがいの男」が「改心」して生活を変える話なのかと思っていたら、そういう単純な話ではなく、面白かった。「Mr.empty backpack」…「動かないのは死んでるのと同じ」という考えの男が、二人の女性の出現によってこれまでになかった経験をし、変化する。原題「up in the air」とも取れる雲の上の情景に、広い空で、幾つかの人生が交差する様を想像した。


手荷物検査ではアジア人の後ろに並べ、と言うライアンに「人種差別よ」と文句をつけるナタリーが、機内でリストラ通知法のフローチャートを作っているというのが何となく可笑しい。決めつけ…しかしそれが有効な場合もある、という点では同じじゃないのか?この映画はそんなことだらけで、淡々とリストラ宣告をこなしてきたライアンは自身が仕事を奪われそうになるし、恋人からメールで別れを告げられショックを受けたナタリーは、自身もメールで会社に辞意を示す。彼等は頑なで、周りが見えていない感じがする。しかしそういう二人でも、互いに影響を及ぼし合い、変わり得る。


ヴェラ・ファーミガは好きな女優。細い体にパンツや原色のコートが似合う。若いナタリーが「ポイントの高い男」について話す間に挟み込まれるヴェラの顔には、色んなものが湛えられており、人生の余白の味わいのようなものを感じさせられた。