抵抗


56年ロベール・ブレッソン作。岩波ホールにて観賞。


抵抗-死刑囚は逃げた [DVD]

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ジャック・ベッケルの「穴」など、脱獄ものは大好きだけど、これを観るのは初めて。面白かった。
1943年のリヨン。ゲシュタポに捕えられたレジスタンスの中尉が、独房から脱獄する姿を描く。


独房から出られるのは、用便捨てと洗面の時だけ。濡らした布で顔をこすりながら、男たちは手早く会話を交わす。シンプルな言葉の中に、あるいは言葉を発しないということに、彼等の信条が表れる。「祈ることはあるのか?」と問われた主人公は、自分の意思こそ重んじていると言う。
その他、小窓や壁越しの通信などのささやかな接触で、監獄の中の者たちはコミュニケーションを取る。情報をやりとりし、励まし合う。主人公も周囲の生命や安全を気遣う。ところが終盤、自分の房に脱走兵が放り込まれると、脱獄に向けてそいつを殺すという考えがあっさり頭に浮かぶのが面白い。


脱獄ものの多くは、「仲間」での作業の様子や駆け引きのスリルが主な見どころだけど、この主人公は終盤まで常に一人、穴を掘るなどのでかい仕事をするわけでもない。限られた物資を利用し、着々と準備を重ねる。そこには「手作業」を見る楽しさがある。スプーンを砥いでノミを作り、ドアの羽目板の隙間を削り、布を裂きベッドの金網を外しより合わせ、窓枠を鉤型に曲げ…一つ一つの作業が順に、丁寧に映される。時折あたりをうかがう涼やかな眼や、屋外の砂利の上での、注意に注意を重ねた足取りも印象的。


音楽もほとんど流れない中、決行の夜、淡々と鳴る鐘の音。0時、1時…そして4時。最後の壁を前に、主人公は「勝ち目が失われていく」と意を決する。そして「外」に出た男たちは、気持ちの高ぶりが爆発する寸前って感じの早足で遠ざかっていく。おそらくずっと忘れられないラストシーン。