ウィニングチケット―遥かなるブダペスト―


シネマ・アンジェリカにて公開初日に観賞。
2003年作品。ハンガリー動乱の最中、サッカーくじで大金を手にした一人の男の姿を描く。


まずは1956年の「ハンガリー動乱」について説明がなされる。民衆の蜂起がソビエト軍によって鎮圧され、市街は戦闘状態となったこと。18万人以上が海外へ亡命したこと。この映画では、祖国に残った者たちを描いていること。
エンディングでは「くじを当てた男が実際にいたのは確かだが、行方は分からない」「この話はフィクションである」との字幕。



歴史の知識が浅薄なせいもあるんだろう、話の特異性に気を取られ、映画としては却って心に残らなかった。そもそも勝手にマーク・ハーマンの「シーズンチケット」のような話を思い描いていたら、全く違っており、サッカーやそれを愛する市民の姿はほとんど出てこない。考えたら当たり前で、それどころじゃなくなってしまった訳だ。
冒頭、主人公ベーレの息子は、彼の溶接マスクをかぶって外でも内でもボールを蹴り、「戦車乗り」の後にはサッカー選手になりたいと言う。ラジオ中継を聞きながら食卓の上で試合を再現するべーレ、ゴールが決まると近所の皆が外に飛び出してくる…という描写が楽しい。しかしくじの当選と同時に動乱が起こり、その後、サッカーに関する描写は全く途絶えてしまう。


「100年分のお給料以上」の大金を手にしたベーレは、当選金をもらった帰り道に信じられないような目に遭い、倒されたスターリン像にものを教えられ、夜はおかしな夢にうなされる。彼の当惑に沿って、映画は可笑しくも奇妙な雰囲気となる。結局彼は、行くあてもなく集合住宅に残った仲間にごちそうと音楽を提供し、束の間の安らぎを得る。しかし外の世界は、どうしようもないほど行き詰まっていた。
ラストシーン、今や静まり返った工場で、フォークリフトを無心に運転するベーレ。冒頭、フォークリフトの競争で仲間と賭けたのはたった一枚の小銭、でもそこには笑顔があったものだ。


ベーレの家には、歌手を夢見るロージカが下宿している。始めのうち、ベーレの方は単なるオヤジ目線、ロージカはロージカで家主を置物扱いだったのが、ゴタゴタの末に二人きりとなり、男女の仲とも同士とも言えない、非常時ならではの、それも悪くない仲になる。ラストの顛末には、そんな都合のいいこと…と思ってしまったけど、それが映画ってものか(笑)
ちなみにロージカの歌声やソビエト軍女性の弾くバイオリンの音色など、肝心な音が、もろ吹き替え?で浮いてたのには興をそがれた。


ベーレの息子は亡命する際、いつも手放さなかった戦車のおもちゃだけを残していく。母親か祖母に命じられたのか、興味を失ったのか…