ジュリー&ジュリア


「この映画は、二つの実話を元に作られています」。
50年代のパリ。アメリカからやってきたジュリア・チャイルド(メリル・ストリープ)は、コルドン・ブルーに学び、フランス料理の研究家となる。
時は流れて現代のニューヨーク。人生に行き詰まったジュリー・パウエル(エイミー・アダムス)は、ジュリアの本に載っている524の全レシピに挑戦し、ブログで発信することを思い付く。



映画は「ジュリア」のパートから始まる。メリル・ストリープ演じるジュリア・チャイルドが、外交官の夫と共に越して来る。50年代のパリは建物や市電、地下鉄、道具屋や食料品屋、化粧室、全てが過剰なまでに素敵で、メリルの大仰な演技とがっつり組み合っており楽しい。予告編にも使われている、時間を持て余したジュリアが「私、何をすればいいのかしら?」と口にするシーンも、パリを堪能し尽くす最中の心の高揚がうまく表れていて印象的だった。
キッチンでのジュリアは人柄そのまま、大胆で情熱的。映画によると、料理については「科学的であること」「分量」にこだわりがあったようだ。「誰にでも作れる」レシピにするためだろう。


一方の「ジュリー」は、住まいにも仕事にも不満を抱いており、状況を変えるために「料理&ブログ」という新たな挑戦を始める。
やがてそのブログは多数の読者を擁することになる。しかし「コメントが付いた」と喜びはしても、彼女が返事を書き込むシーンは無い。「誰かに必要としてほしい」という思いはあっても、ジュリーがブログを続ける理由は、読者との触れ合いではなく、自分に目標を課すこと。だから「作ったことにする」なんて思いつきもしないし、八つ当たりをくらった夫に出て行かれれば、素直に反省する。



この映画は、二組の夫婦の話でもある。
ジュリーの夫エリック(クリス・メッシーナ)は、登場時こそ少々無神経な感じはするものの、二人はちゃんと「絡み合って」いる。コミュニケーションがなされている。
印象的だったのは、編集者に来訪をキャンセルされ落ち込むジュリーに、エリックが気を遣い「そのぶん余計に食べられていいよ」と言うが、彼女の方は「今日くらい悲しませて」と返すシーン。これが言える関係っていいなと思った。
ジュリアと夫のポール(スタンリー・トゥッチ)の方は、もっと単純に、お互い惚れているといったふう。とはいえ私からしたら、ダンナの方が少しクールすぎる感もあり。バレンタインのカードを作るシーンがとても良かった。
そしてどちらの夫婦も、嬉しいときにセックスする。なかなか健全だ(笑)


終盤、とあることにショックを受けたジュリーにエリックが掛ける言葉…「ジュリアは君の心の中の『ジュリア』なんだ、それでいいじゃないか」。とても重要なセリフだ。この映画は、ジュリーと、ジュリーの中のジュリアの物語なのだ。ジュリアのとあるエピソードについて、ジュリーが「だって本に書いてあるもの」と言うシーンからもそれが分かる。
そう考えると、ジュリーが受けるショックも、それを乗り越えたラストシーンも、味わいぶかく感じられる。


ジュリーの友人達が「寄付を募って材料費にあてれば?」と提案するのは、いかにもアメリカ人らしいなと思ってしまった。
作中一番美味しそうだったのは、ジュリアのレシピじゃないんだけど、引っ越し後にジュリーが作る、フライパンで焼いたパンにサルサソース?を乗っけた、温ブルスケッタとでもいうようなやつ。思い切り頬張ってみたい。