その土曜日、7時58分


土曜の朝の静かなショッピングセンター(「マンハッタンじゃないんだ、郊外だから大丈夫」)。車から降りた男が宝石店で強盗を働くが失敗。運転役の男は慌てふためきその場を去る。
映画はその後、両親の経営する店での強盗計画を立てた兄アンディ(フィリップ・シーモア・ホフマン)と実行した弟ハンク(イーサン・ホーク)、さらには事件で妻を亡くした父親(アルバート・フィニー)、それぞれの視点で過去を繰り返しながら、ある結末へ流れてゆく。


監督はシドニー・ルメット。原題は「Before the Devil Knows You're Dead」…「その死が悪魔に知られる前に、天国へ行けますように」という諺より。時系列をシャッフルする流行?のスタイルだけど、サスペンスというよりメロドラマだ。



不動産会社の雑用係から始まって今やそれなりの地位に立つが金を必要とする兄が、離婚して慰謝料の支払いにも困っている弟を呼び出す。いつもの店で酒を前に、肩が前にずれこんだシャツと半開きの口で話を聞く弟。兄のほうはぴっちり撫でつけた髪に小奇麗なスーツ。しかし余裕を見せる兄も、のっぴきならなくなると口を開いて座りこむ。ベッドに寝転がる。気のせいか顔まで似ているように感じられるときがあった。


アンディの妻ジーナを演じるマリサ・トメイは、始め誰だか分らなかった。普通っぽいかんじの女性だけど、作中一度もブラジャーを付けない。
冒頭二人がしているセックスが後背位で、女としては相手の顔や体を見ることなくやりすごせる体勢でもあるから、この場合どうなのかな?と思わせられる(横の鏡をちらりと見るホフマンの顔にも色々思わせられる・笑)。その後のベッドでのジーナの仕草や喋り方がリアルでいい。一方やけに上気したアンディは、「こんなふうに生きていきたい」などと口にする。
彼女は夫の弟と「浮気」をしている。母親の葬式において、追い詰められた弟は家の外から携帯を鳴らす。夫とその父親の前で受け答えする彼女の口調は乱暴で、どうにでもなれといったかんじだ(神経の尖っている父親が何か言わないかはらはらした)。
映画は淡々と進んでいくけど、この後、父とアンディが心の内を吐露し合う場面は激しい。「結局、ハンクのほうが見た目がいいから気に入ってるんだろ…?」。「エイプリルの七面鳥」('03)に出てきた、第一子についての「できそこないのパンケーキ」という表現を不意に思いだした。


舞台は暑くも寒くもない時期のニューヨーク。他の映画のように度を越して多忙そうにも、あるいは古臭くも撮られておらず、ごく自然で、実際に行ってみたらこんなふうなのかもと思わせられる。
終盤、夫の許を発つジーナが、スーツケースを運ぼうとするが室内の段差に困り、画面の端の方まで引きずっていきそちらで持ち上げる場面が妙に印象に残った。こういうシーンのある映画って、説得力がある。
ハンクがレンタカーのドアを開けるたびに鳴る警告音、父親が警察に電話で詰め寄る際に背後で使われている掃除機の音など、耳障りな音の数々も効果的で、どきどきさせられた。場面が切り替わる際の演出はベタベタだけど(テレビドラマぽいというのか)それもわるくない。
それから、アンディがクスリを打ちに通う部屋のソファ、というかその置き方がすてきだった。高層階の良さだ。