この自由な世界で


シネ・アミューズにて公開初日。
ケン・ローチの新作は、とても面白かった。
ロンドンに暮らすシングルマザーのアンジーは、職業紹介所をクビになった後、ルームメイトと共に外国人労働者を企業に斡旋する仕事を始める。馴染みの経営者から不法入国者を働かせてはと提案された彼女は、いったん断るものの心が揺れる。



アンジーの言動はストレートで気まぐれで、そして迂闊だ。不法入国者の暮らしぶりを見れば連れ帰って冷蔵庫の中身を提供するし、ローンを早く支払いたいばかりに違法行為を犯すし、愛する我が子を「映画の続きが観たいから」とピザ屋の支払いに外に出す。
私はあんなにエネルギッシュじゃないし…そもそも働くのが性に合ってないから、(そして環境が少しは彼女より恵まれてるから)人生のほとんどをぶらぶらしてるけど…彼女の行動、仕事に対するそれはもちろん、男に対する言動、暴力に遭ったときの対応などがリアルに感じられ、共感できた。そういう映画はともかく観ていて気持ちがよい。
彼女を始め、出てくる人物の表情も見ていてとても「自然」で、例えば冒頭、仕事をクビにされたことに抗議するアンジーの横でそれを聞く同僚女性の顔つきや、仕事のパートナーであるローズに不法入国者を「救う」ことについて咎められたときのアンジーの顔つきなどはとくに印象的だった。


アンジーは、母親からは「そろそろ腰を落ちつけなさい」、30年同じ仕事をしてきた父親からは「不法なことはしてないだろうな?」などと言われると、「もう批判はたくさん」「少しは誉めてよ」などと言い放つ。不渡りを出した経営者(彼もまた、上に搾取され騙されもする)に対しては、怒鳴りながらも「助けてよ」と詰め寄る。彼女だけでなく周囲の人々も、あれだけぎりぎり、やれることをやっている状況では、当然ながら言わぬが何とかなどという考えは存在せず、とにかく自分の気持ちをストレートに主張するしかない。


アンジーは33歳、私とほぼ同い年だ。だからというわけじゃないけど、少女時代や今より若い頃はどういうふうだったんだろうと思いを馳せた。好きな音楽とか、あったんだろうか?ヘアスタイルやその格好から想像してしまった。
彼女がハーレーに乗るシーン、とりわけポーランドから出稼ぎに来た青年・カルロを後ろに乗せて走るシーンは、音楽も相まって、80〜90年代のケン・ローチの作品(「リフ・ラフ」など)を思い起こさせた。
ちなみにこのシーンでは、どんなカタチでの所有であれ、自分の「バイク」があれば、好きな相手を乗せられるんだなあとも思った(笑)



「彼等に支払いをするなら、自分のお金でやって。私は気にしないわ
 自由な世の中なんだから」



「あんな目に遭うのが、もしあなたの息子だったら?」
「…私の息子じゃないわ」