ヒトラーの贋札


第二次世界大戦中、ナチスが英・米国の経済を撹乱する目的で企てた「ベルンハルト作戦」。とある収容所に腕のあるユダヤ人が集められ、まずはポンド紙幣の贋札作りを強制された。暖かいベッドと十分な食事を与えられた彼等は、日々仕事に励む。



戦場・収容所・刑務所など「ひどい生活を強いられている」モノ映画としてまず面白かった。ナチス隊員のいたぶり、囚人内での仲間割れなどはこれまで何度も観てきたものだけど、食事の「がっつき」具合はそうした数々の映画の中でも強烈だし、その他、やわらかな布団に喜ぶ場面、ガス室に送り込まれる場面など印象的なシーンが多い。ああもうすこし観たいなあ、と思わせられるほどさっさと場面転換していくのも心地よい。
それにしても、以前から思ってたんだけど、映画においては、ヨーロッパの人は、どれだけお腹を空かせていても、必ずスープはスプーンですくって飲む。切れ端程度の具が浮いている液体であっても、喉に流し込んだりしない。実際のところはどうなんだろう。


当然ながら、収容されているユダヤ人の考え方も一様でない。主人公のサリー(私には藤田まことのように見えた)はとにかく絵を描くことの好きな「贋物作り職人」だが、入室早々「こわもて」として一目置かれるために計算してふるまったりと、骨太な男でもある。



「(アウシュビッツにいる妻のことを嘆く仲間に)辛く思うな、ナチスが喜ぶ」
「今日の銃殺より明日のガス室だ」
「(サボタージュしている仲間の密告を勧められ)仲間を裏切ったら殺す」


(↑ちなみに「サボタージュ」とは、具体的に日がな何をどうしてたんだろう?)


映画は、解放されたサリーが残された贋札を抱えてカジノに赴き、当時を回想する形で始まる。囚人となる前、隠れ家で女とセックスした彼は、その寝姿をスケッチにとどめる。女が起きてのぞきこむ。



「…絵は好きか?」
「好きよ、だからついてきたんじゃない」(とかなんとか)


容姿が、財産が、才能が…何らかの要因でもってあなたが好きだ、と言われるなんて、もし私なら耐えがたい(そういう私だから何の才能もないのだ、ということもできる・笑)。
収容所で彼の仲間は「俺たちは偽札作りのために生かされてるんだ」と口にする。わかりきっている、ひどい屈辱だが、生きるためには仕方ない。


原作は、作中ただ一人、ナチスに反抗して仕事を「サボタージュ」するブーガンが戦後に著したもの。彼を演じた役者さんは、若い頃のキース・キャラダインといったかんじの男前だった。前髪が毎日ちがうふうに上がってたけど、意図してそのようにセットしてたのか、そうならば石鹸以外の洗面用品も支給されていたのか、それとも寝起きのシーンですでに上がってたから寝ぐせのつもりなのか、ちょこっと気になってしまった。