ミス・ポター


オープニング、あるていど年季の入った女性の手が、鉛筆を取り、ナイフで削り、線を引く。筆を出し、絵の具を水で溶き、画用紙に色を塗っていく。これは面白そうだ〜と思ったら、やはり、なかなか面白かった。
終盤は「お金があればやりたい放題できる」という話で可笑しかった。



1902年のロンドン。上流階級の娘、ビアトリクス・ポターレニー・ゼルウィガー)はウサギのピーターが主人公の絵本製作に熱中。縁談を蹴っては出版社への売り込みに精を出していた。彼女の世界に魅了された駆け出し編集者ノーマン(ユアン・マクレガー)と二人、ベストセラーを生み出し、恋におちるが、ビアトリクスの両親は身分違いの結婚を許さなかった。


ポスターを目にするたび「名取裕子にしか見えん」と思ってたけど、レニー始めキャストが皆よかった。彼女のぽってりした指や、ぼやけてゆがんだ輪郭の唇が、「普通の女性」の幸せから遠いところに立っていることを感じさせ、物語にはまっていた。
「幸せは主体によって変わる」ということが頭では分かっていても(分かっていない場合は勿論)言動に表せないために、少数派にとって多くの問題が起こる。相手に対する言動だけでなく、自分自身のコントロールにおいても。
いかにもイギリスらしいのが、ポターと父親の会話。
「これはお父さんとは関係のないことなの」
そう言われた父親は納得し、愛しそうに娘の頬をなでる。日本ではこういう展開にならないところだ。
加えて私も実家にいた頃、よく両親に頬を撫でてもらったのを、懐かしく思い返した。


お嬢様レニーの外出には、お目付け役の老婦人が付いてくる。妙齢男子のノーマンと一緒のときは、普段より目力こめて付いてくる。時代と文化の違いと分かっていても、こんな仕事たいへんだなあとつい思ってしまうけど、彼女に関してもちょこっと笑えるシーンがあり、ほっとした。
外出時、彼女は先を行くレニーとノーマンの三歩ほど後ろを付いてくる。ノーマンはたまにちらっと振り返る。ユアンはほんとうに儲け役!あらゆるシーンで好感を持たずにはいられない。いかにもイギリスらしい?キスシーンも良かった。歌声を披露するシーンも(笑)良かった。


湖水地方の風景もいいけど、おウチの中を見るのがそれ以上に楽しかった。
ビアトリクスの部屋は、子ども時代には弟と一緒。二人の寝るベッドがすてきだ。さらに大きなドールハウスがあって、寝る前のビアトリクスの「お話」は、その中を舞台に展開する(登場人物は、カゴから出したペットのネズミ!)。
ティーセットも、上流階級のビアトリクスの家(彼女いわく「成り上がり」だけど)のものは陶器製でいくつも種類があるけど、商人であるノーマンの家は銀製。キューカンバーサンドと並んだパウンドケーキを、アタマぼさぼさの独身主義者のお姉さん(エミリー・ワトソン)が無造作に食べる。どこの家でも、それはそれで楽しそうだ。