わたしはダフネ


オープニングから印象的な、ダフネ(カロリーナ・ラスパンティ)の赤く染めた髪とピンクのジャケット。作中にはスーツケースや枕など彼女の持ち物だけじゃなく病院の案内線から建物のエレベーターの扉まで、濃いピンクが頻出する。彼女が「私は自分のお金もカードも持ってる」「仕事は神聖なもの」と誇りにしている勤め先のスーパーマーケットのテーマカラーもそうであるのには、だからここでの仕事を選んだのか、あるいは同じ色を好む者には同じ精神が宿っているのかと考えた。

しかしダンスシーンで照明によりその場の皆の肌がピンクに染まるさまにふと思った、これはダフネの持つ、殺されるところだった芋虫を助け老人に席を譲る優しさ、それを持たない者には(「Eメールが12通も来てるから!」と、すなわち私は皆と繋がってるんだから!と)皮肉を飛ばして攻撃するタフさを表す血潮の色であり、世界にはその血潮が潜在していると言っているのがこの映画なんだと。

冒頭、宿に戻ったダフネの「お父さんは起こさないでよ、洗面所取られるから!」との日本のフィクションにもよく見られるような「娘らしい」セリフに、母親マリア(ステファニア・カッシーニ)は眠る当の父親ルイジ(アントニオ・ピオバネッリ)の額にそっとキスをする。ダフネとルイジの間に常にある一人分ほどの距離は、二人を繋いでいたマリアの場所だったと思われる。しかし彼女を失った二人は「共働きのチーム」として助け合わねばならない…と、ダフネは考え提案する。今のところ、あるいはずっと距離があったとしても、隣に並んでいることには変わりがない、大丈夫。

「お母さんが英気を養ってた」故郷の家にだって母親の息吹は残っているだろうに、そこの空気は窓を開け放って入れ替えることをしても、「お母さんの息が入ってる」アレは大事に秘密に運んできて父親に贈る。ダフネの言葉を借りれば「それが人間らしいってこと」なのかもしれない。あるいは感傷はどうせなら小さくまとめて携えて生きるってことなのかもしれない。