エル・クラン



実際に起きた事件を元に作られた本作は、親から逃げずにいると取り返しのつかないことになるという話だった。最後に出る文章が、家族の離散以上のその後を表しているのが何とも皮肉だ。


オープニングの「実際の」映像で、アルゼンチンに新たに誕生した民主政権いわく「もう国の品位を落としてはならない」。これから品位ゼロどころじゃないことをする奴らの話を見るのだと分かる。尤も当人達は仕事に勤しむ「戦士」と思っているふしがあるけれども。
とはいえ当初は何の話だか掴めなかったのが、客入れの時から流れ、エンドクレジットにも流れ、作中ではアレックス(ピーター・ランサーニ)の登場時から流れるキンクスの「Sunny Afternoon」が友人の車の中で「実際に」流れ出す時、胸騒ぎがして、物語が「始まる」。後半、誘拐の場面に使用した軽快なBGMを、監禁時の声が漏れないよう家で「実際に」流しているなんて描写が、この映画を「こちら」側に留めており、私には少々勿体なく思われた。


父親アルキメデス(ギレルモ・フランセーヤ)が人質に筆を取らせ「パパ愛してる」と書かせる場面と長男アレックスがラグビーの練習をする場面、「全てはパパ次第」と書かせる場面と車の中でセックスする場面がクロスカッティングで描かれる。他の時間よりも過剰に体を使うことで、「親」から一時、逃れることが出来るものかもしれないと考えた。
しかしあくまでも「一時」である。物理的に離れるのが最も有効なのだということが、アレックスと三男ギジェの空港の別れの場面で分かる。とうとう息が出来なくなったアレックスは次男マギラを生贄に差し出すが、解決にはならない。ちなみに「自分の道(=外国暮らし)」から戻ってきた息子に父親が車を用意しているのには、私が名古屋の高校生だった頃まことしやかに流れていた、いや実際そうだった、「女の子は他県の大学に進む代わりに車を買ってもらう」というのを思い出した。同じことだ(そりゃあ車の「使い方」は全然違うけども。「あの日」にはその車がもう、大層汚れているのが「リアル」でいい)


モニカ(ステファニア・コエッセル)がアレックスにとって、店名じゃないけどまさに新たに吹き込んできた「風」だったことが分かる場面の数々がいい。寒い国の人は寒さに強いだろうに、彼女に北欧の血を感じた彼は「寒さに弱そうだ」なんて言う(出会う前の彼の頭は凝り固まっている)。この映画の「鏡」を使った演出の数々は特にいいと思わなかったけど、この時、二人の前に「無限」が伸びているのは面白い。
またアレックスが女性は服飾や子どもに関わる仕事をしたいものだと思い込んでいるところに、モニカは服には興味がないし保育園の仕事は「手段」だと言う。この時、「スウェーデンの、夏が素敵な島」が彼にとってはおそらく遠い星の輝きのように現れる。「あの日」がそこに出掛ける直前だったというのも、実話なんだろうか?