最近見たもの

▼キーパー ある兵士の奇跡

ジョン・ヘンショウの顔を見ながらふと、そういやこれ、イギリス・サッカーものだったと気付く(知っていたけど忘れていた)。更に話が進むうち、これは死なず生き延びた人間の話なのだと分かる。語弊があるかもしれないけれど、こんな快活な映画って久々で、いいなと思った。

まずは恋愛ものとして楽しい。マーガレット(フレイア・メーバー)とバート(デヴィッド・クロス)の「問題児」同士の出会いには、「問題児」って場所がそう評させるのだと思う。「宙に浮けるから」ダンスとサッカーが好きな二人が一緒に踊るのは実に地に足の着いたダンスばかり。一緒にいれば宙に浮けるってこと。

映画の終わりは浜辺での夫婦の会話。「マーガレットはものじゃない」と言っていたバートが、自分の子どもは二人の子であることを忘れている。あまりに傷ついていたから。何でも話してほしいと彼女は言っていたけれど、この場面からは、確かに話すことは有用だと伝わってきた。

▼おもかげ

「ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強姦殺人事件」で強姦殺人の一部始終を見せたロドリゴ・ソロゴイェン監督の本作は、見せ方としては真逆の電話の向こうの一幕に始まる。自分のものなのにどうしようもない夢のようで、さすがにここは面白い(このパートが短編として先に発表されたそうだけど、見ておらず)。

この映画の特徴は時間の感覚がない…時間が止まって感じられるところ。「夏の間しか貸し出されないのかと思ってた」部屋にソファベッドで寝、「スペイン人が十年も」と言われながらフランスの海辺で観光客相手の仕事を続けるエレナ(マルタ・ニエト)が少年ジャンと出会い、「休暇」中同士で惹かれ合う。彼女は最後、休暇を終えることを選択する。

私達が誰かに何かを感じる理由は別に何だってよく、「失踪した息子に似ているから」だって構わない。この話の面白い要素はこれに尽きる。でもそのことは見ている私が何というか掬い取って感じただけで、映画からは、もしかしたらこれがテーマなのかなとも思うんだけども、伝わってこなかった。

▼異端の鳥

始めは何が何だかよく分からない。それは主人公がまだ子どもで、映画は冒頭その視点で撮られているから。次第に周囲の大人たちがよく映るようになるのは、彼が周りを見るようになるから(終盤には露骨に「見ている」彼のカットも入る)。これに気付いた中盤から面白くなった。

初めて死に直面した時には火を落として家を全焼させてしまう少年が、火を使い生き延びるようになる。周囲の大人を見て学んだから。それだけじゃない、使用人がアレされるのを見て…馬が殺されるのを見て…それら全て、自分がやられたことじゃない、脇で見ていたこと。そうだよね、やられたら死んでいるから。見て、生き延びた子どもが真似をするのだ。

終盤、少年が遂に相対して人を殺す時、事前に建物の中から相手を認めるシーンと相手に向かうシーン、いずれも彼の姿が陰になって真っ黒で、変なことを言うようだけど、映画の観客がスクリーンの中に不意に現れたようだった。ここがこの映画で一番印象的だった。

▼星の子

「82年生まれ、キム・ジヨン」の数日後に見たので、永瀬正敏演じるお父さん、全然いいじゃんと思えてしまった。社会から隔絶しているからとも言える。生計や家事をどうしているのか全く分からないけれど、ちひろの視点だから(子どもの目にはそういうものって見えないから)省かれているんだろう。

それにしても怖いのは南先生(岡田将生)の授業。中学校なのに生徒とのやりとりが一切ないのは異常だ。この映画ではあらゆる人々の内面が全く見えない。ちひろの言動の根っこも映画を見ている私には全然掴めない。でもちひろの視点なのだからそういうものなのだと思う。それが全編通じて空恐ろしくて面白かった。

予告の時点では教室の標語の貼り紙などに嘘くささを感じていたものだけど、美術で印象に残ったのは置き勉の激しさ。机の中だけじゃなく後ろのロッカーまで、映画でもあそこまでのものは珍しい。リアルというより家の外(=子どもにとっての社会)の乱雑さを表しているようにも思われた。まあ考えすぎかな。

▼お気楽探偵アトレヤ

探偵自身も「意味が分からない」と言うくらい、何が起こっているのか分からないタイプのミステリー。でもアトレヤと助手のスネーハ、二人の母親のことは関係あるんだろうなと見ているうち、そういや冒頭に事実を元にしたと出ていたな、事件から遡って話を作ったのかなと考えた。本国インドの人はどう見たことだろう。

こんな「探偵」ものってどこの国にもあるんだな、昨今見てないけど、などと思っていたら、序盤の歌に「白人の真似をしても服の丈が余る~」。そういう自虐も盛り込まれているわけだけど、たまたまか否か、某アメリカ映画から始まった映画の話題がエンディングには「バーフバリ」と「マッキー」で終わる。

枕元には「シャーロック」のポスター。「人が殺された!やった~」の他、推理法(これらは原作からしてそうだけど)、盛り上げる時にはドラマの「テテテテテ!テテテテテ!」という曲のパロディみたいな音楽が流れるのが可笑しかった。