ヘレディタリー 継承



まずは音楽の不愉快さに、数年ぶりにお腹が痛くなった(そういう内容なんだからそれでいいのだ)。NG集でも見て作り物なのだと確認して終わりたい映画である。


(以下「ネタバレ」らしきものあり)


窓の外の、百葉箱にしては大きいし白くないなと思いきやツリーハウス、からカメラが引くと部屋の中には部屋がたくさん。アニー(トニ・コレット)が作るミニチュアの模型である。その中の一つに横たわる息子ピーター(アレックス・ウルフ)を父親スティーヴ(ガブリエル・バーン)が呼びに来るというオープニング。チャーリー(ミリー・シャピロ)の棺桶と共にカメラが下がって土の断面が映るカットが印象的で、「ミニチュア感」(「中」の人には不可能な目線)の演出に加え、後にアニーやスティーヴがその下を覗くテーブルやとある人物に呼ばれるピーターの前のテーブルの板など画面を横切る線が悪魔的である。


(ちなみにこの「ミニチュア感によって登場人物を駒のように見せる」って最近どこかで…と思ったら、レイチェル・マクアダムス演じるやはり「アニー」が出てくる「ゲームナイト」だった・笑)


アニーにすれば、不断の努力にも関わらず家族を失い続ける話である。しかも彼らは混乱と不審の中に死んでいったに違いないのだ。こんな事例は世にそうないはずなのに、彼女が吐露する「誰も過ちを認めない!」「うんざり!」といった感情や息子に見せる憎しみの表情は非常に普遍的なものに思われ、人はどういう時に人を憎むものかと考えた。とあるものを夫に確認してもらおうとする姿には、幾多のホラー映画やパニック映画で見てきた同じような場面はもしかしてこれを表現したかったのかと思った。苛々させられるばかりでこういうことだと気付かなかった。


映画が終わるなり、学校はどうするの?と間抜けなことを思ってしまったものだけど(笑)息のできなくなったピーターが友達に「手を握っててくれ」(この世界に留めてくれ)と言うのが心に残っており(同時にアニーの手にとある人物が触れたのを恐ろしく思い返す)、前の席の女子生徒の尻から始まる彼の他愛ない学校生活こそ母が何とか守ってきたものだったのかなと考えた。


さて、トニ・コレット46歳の夫役は、「マダムのおかしな晩餐会」のハーヴェイ・カイテルが79!で「ヘレディタリー」のガブリエル・バーンが68。前者は地位を求めて結婚した女の話だからだとしても、それも含めて、女優の方がやっていくのが難しいということを思わずにいられない。