ヒトラー最後の代理人



「未体験ゾーンの映画たち2017」にて、ルドルフ・フェルディナント・ヘスの手記を元にしたという本作を観賞。



アイヒマンも私の仕事はやりたがらなかった」
「拘束されてから、命令を拒めなかったのかと何度も問われたが、彼らは命令する側、私は従う側、民主主義のイギリスだって言っているだろう、善悪を問わず祖国は祖国だと」
「彼ら(被収容者)を見る時は、命令ではなく自分の意思でそうしているのだと見えるふうにした、部下達にもそう命じた」


オープニングは暗い家に鳴る電話を受けた男が、喘息らしき子の咳に振り返るも出掛けていく場面。これがルドルフ・ヘスかと思うがそうではない。この映画は明らかに、主人公アルバートルドルフ・ヘスの二人を混同させるように描いている。初対面時の、視線と口角を上げているか下げているかが違うだけ(ってそれじゃあ全然違うだろうと言われそうだけど)の二つの顔、労働者を見る姿、車内で手錠を掛けられた腕、どちらがどちらだか分からない。結婚指輪をはめているアルバートがもう一つの指輪を取り出して机に置くと、ヘスは拾ってきた犬か猫が与えられた餌を取って隠れて食べるような、そんな仕草を見せる。


アルバートは取調室に一枚の絵を掛けて「仕事」を始める。机の上に置かれたテープレコーダー、カップ、紙と鉛筆、この映画の画面の中に在るものには、全てに「役割」があるとふと思った。差し込む陽の光はその下で人間が何かをするため、しかし月の光の元でも手記は書ける。アルバートがバーで「ドビッシーの『月の光』」とモーツァルトの「月光」を聴く場面が面白かった。私には何だかfunnyな演奏に思われた。