ネクスト・ゴール! 世界最弱のサッカー代表チーム0対31からの挑戦



FIFAランキング最下位のアメリカ領サモアのサッカー代表チームが、2014年ワールドカップ・ブラジル大会の予選で初勝利を目指す様子を追ったドキュメンタリー。原題の「Next Goal Wins」とは、作中のセリフによると「次に点を取ったチームの勝ち」という、草サッカーなどの「適当な試合」で使われる言葉だそう。もっとも同時に説かれるのは、邦題のニュアンス通り「Next Goal」(あと一点)という意識を持つことの大切さだ。


面白いのは、予告編でも強調されており、ボランティアコーチもBBCのインタビューに「転機」として答えている、米国サッカー連盟から派遣されてきたオランダ人コーチのトーマスの存在が、全然「突出」していないってこと。彼が「凄くない」からではない。元々「何」が特別ということは無い「個」の集まりであり、新たな一つの「個」がその仲間となって、共に作用し合い、結果が出たというふうに感じられるのだ。
もっとも、米国サッカー連盟が求人を出すも「応募してきたのはたった一人」とのナレーションに、機内でメモ帳に練習プラン?を描いている白髪の男の後頭部が映るのにはわくわくしたけれども。ちなみに私の目には、コーチの三人が、ロック様が教えてたところにグッチ裕三がやってきて、更にヴァンサン・カッセル(これがトーマスね)が加わる、というふうに見えた(笑)ロック様が、おそらく以前はそうでもなかったんだろうけど、殆ど何もしないのが面白い。でもってそれでも全然構わないのが、この映画の肝。


アメリカ領サモアのサッカーチーム」の話に、とても複合的で普遍的な印象を受ける。それは選手達が学業や職業を持つ「アマチュア」である(リーダーは高校の教員!)ことや、練習している傍らによく分からない子ども達がうろついている(円陣に加わってる時も・笑)なんてことによるのかもしれない。どの人の中にも…人だけじゃなくどの「場」にも、多くの要素が混在しており境界が無い。もっともこれらは、国の人口も少なく経済も発展しておらず、サッカーに関わる人もお金も無いということから来ているんだろうけど。映画はただただ、それらを映し出す。見ていて気持ちいい。
そしてこの映画は、あらゆることを描いているようで、最後にはやはり「アメリカ領サモアのサッカーチーム」の話に帰結する。「何か」が無ければ普遍的にはならないという、当たり前のことか。


冒頭に出てくる、オセアニア予選大会の様子を見るのからして楽しかった。自分は普段、「オリンピックの開会式」くらい統合されつくしたものか、身の回りのローカルなものか、そのどちらかにしか触れていないんだなあと身に染みた。ダンサー達の顔付き、体付きの美しいこと。
全く知識の無い「アメリカ領サモア」のことも少しだけ分かった。バス、雨、ココナッツ、芋、芋、芋。男性はスカートを履いている。蒸し暑いならその方が快適だろう。「この国で高校を卒業するのは年間1600人、多くが米軍に入って国を出て行く」。サッカー選手を夢見て(「故郷にいちゃスカウトも来ない」)入隊した青年が、トーマスの「コネ」で呼び戻される。
「異国人」だったトーマスの変化も面白い。「教会に行ったこともない」彼が、「この自然は神の賜物かも」と最後には目を閉じ雨を浴びる。そういえば、冒頭の「教会に行くのは練習時間外にしてくれ」というやりとりは、どう決着がついたんだろう?(笑)